「安倍前首相の不起訴」に対するある疑問

安倍晋三前首相の後援会が開いた「桜を見る会」の前夜祭を巡る収支が、安倍前首相の関連政治団体の政治資金収支報告書に記載されていない問題について、東京地方検察庁特捜部は前夜祭を主催した政治団体の代表を務める公設第一秘書を政治資金規正法違反の容疑で略式起訴する方針です[1]。

これは、検察当局が安倍前首相に任意で事情聴取を行い、安倍前首相が不正に直接関与していないと判断されたことを受けた措置となります[1]。

所定の手続きを経たうえでの判断であれば、検察当局が安倍前首相を不起訴処分とすることには一定の合理性があると言えるでしょう。

一方、参加者に対する費用の負担や政治資金収支報告書への収支の不記載について、公設第一秘書と安倍前首相がいずれも安倍前首相への報告が行われていなかったと説明していること[1]については、検討の余地があります。

すなわち、問題となるのは、金銭の移動を伴う行為について、秘書が議員に対して相談せず、独自の判断で処理することが可能か、という点です。

もちろん、行政府の長であり、「森羅万象全て担当して」[2]いる内閣総理大臣は多忙ですから、後援会が開催する「桜を見る会」の収支や、参加者への金銭の負担などの詳細を知らないとしても不思議ではないかも知れません。

しかし、過去の首相と秘書とのやり取りを参照すると、両者が繊細な話題に至るまで入念に意見の交換を行い、秘書は時に首相の判断を仰ぎ、時に首相に助言や還元を行っていることが分かります[3]。

そして、両者の会話では、具体的な政策や政権の運営だけでなく、金銭の動きもしばしば重要な話題として取り上げられます[3]。

こうした事例を踏まえると、安倍前首相に全く報告がなされないまま公設第一秘書が単独で物事を進めたという説明は、両者の意思の疎通が不十分であるか、いずれかが虚偽の説明を行っているか、あるいは二人とも真実を述べていないという可能性を示唆します。

それだけに、今回の事態の推移は必ずしも真実を反映しているとは言えず、むしろ真相の解明が遠のいたということを予感させるところです。

まさに、「捜査の終結による幕引きは許され」[4]ない所以であります。

[1]安倍前首相 不起訴へ. 日本経済新聞, 2020年12月23日朝刊2面.
[2]第一九八回国会 参議院 予算委員会 第一号. 参議院, 2019年2月6日, 8頁.
[3]岩野美代治, 三木武夫秘書備忘録. 吉田書店, 2020年, 3-70頁.
[4]「桜」の捜査終結で幕引きは許されず. 日本経済新聞, 2020年12月23日朝刊2面.

<Executive Summary>
Can We Close the "Sakura Scandal"? (Yusuke Suzumura)

It is said that the Special Investigation Squad of the Tokyo District Public Prosecutors Office will prosecute the Chief Public Secretary for Ex-Prime Minister Shinzo Abe and so-called the "Sakura Scandal" might be closed. However it would not be an adequate decision for the Office, since the truth of the case might be not clear yet.

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