自民党総裁選での「2位・3位・4位連合」は決選投票での有効な戦略か

明日投開票される自由民主党の総裁選挙については、現時点で第1回目の投票では過半数を制する候補者がなく、決選投票が確実な情勢であるとの指摘があります[1]。

この場合、第1回目の投票で1位となった候補に対抗するために、2位以下の候補者が連携し「2位・3位・4位連合」を形成して総裁選を制するという戦略が予想されます。

これまで、決選投票が行われた4回の総裁選挙を確認すると、1956年及び2012年は第1回目の投票で1位であった候補者が2位の候補に敗れており、3位以下の候補の支持者をどの程度まで取り込めるかが決選投票の結果を左右することが分かります[2]。

しかし、3位以下の候補の支持者を遺漏なく繋ぎとめられるかが定かではないのは、岸信介、石橋湛山、石井光次郎の3人が争った1956年の総裁選の事例を見るだけでも明らかです。

すなわち、第1回目の投票で岸が223票、石橋が151票、石井が137票で、最多得票の岸が過半数の256票に届かなかったため、規定に従い得票数が上位2名の候補者による決選投票が行われることになります。そして、決選投票では投票総数510票のうち、石橋が258票、岸が251票を獲得し、無効票が1票となり、石橋が当選しています。

石橋と石井は事前に決選投票が行われた際には3位の者が2位の候補者に投票するという「2位・3位連合」で合意していました。

1956年の総裁選での決選投票は、石橋派と石井派が合意した「2位・3位連合」が機能したことを示していました。

しかし、決選投票での石橋の得票が第1回投票の両陣営の合計288票を30票下回ったことは、石井の獲得した137票の全てが石橋に投じられたのではなかったことを示しています。

計算の上では決選投票で石橋陣営と石井陣営から28人が岸の支持に回ったという事実は、両陣営の統制が万全ではなかったこととともに、岸側も決選投票を見据えた対策を講じていたことを推察させます。

実際にはこの時の総裁選を経て、自民党の派閥はそれまでの「七個師団三連隊」から、総裁派閥である石橋派以下、大野派、池田派、佐藤派、石井派、岸派、河野派、松村・三木派の「八個師団」に再編され、派閥は地縁や財力、あるいは官僚派と党人派といった戦前の保守政党における区分から、総裁選での勝利と閣僚人事のための基礎的な単位へと変貌します。

そのため、1956年の総裁選当時の派閥は必ずしも統制の厳しいものではなく、閣僚や党役員の人事での優遇などと引き換えに支持する候補を変更する者も珍しくありませんでした。

それでも、往時に比べて派閥内の連帯が緩やかになっている現状に鑑みれば、条件次第で第1回目と決選投票で投票先を変える者がいても不思議ではありません。

従って、決選投票になれば2位の候補が「2位・3位・4位連合」により有利になるといった楽観的な見立ては成り立たず、実際に開票されるまで予断を許さないと言えるでしょう。

[1]議員票 岸田氏が先行. 日本経済新聞, 2021年9月28日朝刊1面.
[2]決選投票 4回中2回逆転. 日本経済新聞, 2021年9月24日夕刊2面.

<Executive Summary>
Is the 2nd-3rd-4th Candidate Union an Effective Strategy for the Final Ballot of the LDP Presidential Election? (Yusuke Suzumura)

The LDP Presidential Election is conducted on 29th September 2021 and it is said that the 2nd-3rd-4th Candidate Union might be an effective strategy for the Final Ballot. In this occasion we examine an efficacy of the strategy based on the history of the LDP Presidential Election.

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