【書評】安西巧『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡張構想』(日本経済新聞出版、2020年)

去る6月8日(月)、安西巧さん(日本経済新聞社)の新著『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡張構想』(日本経済新聞出版、2020年)が出版されました。

本書は、少年野球人口の減少などに着目して「プロ野球の衰退を予言する向き」(本書12頁)がある状況の中で、2004年のいわゆる「球団再編騒動」以降の「変革の波」(同)に直面してきた日本のプロ野球界が市場を拡大してきたという点に着目し、現在の12球団から16球団への拡張を目指すにあたっての論点を提示することを目的とします。

その際に示されるのは、以下の7つの論点です(本書52-63頁)。

(1)プロ野球市場(観客動員)規模の拡大
(2)近づく球場の飽和状態
(3)球団運営の黒字化("儲かるビジネス"への転換)
(4)新しいナショナルブランド企業の確立
(5)モノ消費からコト消費へ
(6)地方経済の活性化、地方再生の足がかりに
(7)不条理なポストシーズンの改善

挙げられた論点は、従来から指摘されている点(論点4、7)、時流を捉えた視点(論点5、6)、比較的新しい指摘(論点1、2、3)と、変化に富みます。

さらに、このような論点が一つひとつ検討された後、新球団を設置する際の候補となる4つの府県(新潟県、静岡県、京都府、岡山県)と4つの地域(北関東、北陸、四国、南九州)が挙げられ(本書63-64頁)、セントラル・リーグに新潟県、京都府を本拠とする球団、パシフィック・リーグに静岡県と岡山県に所在する球団を新設するという案が提起されます(本書70-72頁)。

球団拡張によって市場の拡大に努めて来た大リーグと対比させつつ、1954年の高橋ユニオンズ以降、2005年の東北楽天ゴールデンイーグルスの加入まで新規参入がなく、球団数も1958年に両リーグがそれぞれ6球団制となって以来固定されている日本のプロ野球の状況の変革が必要であることを、定量的な情報に基づいて指摘する手法は手堅いだけでなく納得感の高いものでしょう。

また、球団拡張に伴い同じ、読売ジャイアンツと東京ヤクルトスワローズという同じリーグの球団が東京都を本拠地としている状況を改める必要性を指摘することも(本書126-128頁)、一聴に値します。

一方で、球団を新設する際に主として本拠地を置く都市と周辺地域の人口に着目するものの、各地域の経済規模やサッカー、バスケットボールなど他のプロ競技との競合の可能性が検討されていないことは、拡張後にどの程度安定した経営を行えるかという点からするといささか説得力を欠くものとなります。

あるいは、「それぞれの時代の課題や解決策を分析・検証していくことが、日本のプロ野球を論じる際に適切かつ有効な材料になる」(本書12頁)という考えから、第5章から第9章にかけて明治時代初頭からの日本のおける1950年代までの日本の野球界の変遷を概観することは野球史を簡潔に理解するためには重要ながら、これまでの一般書や研究書を超える内容はないため、第4章までの議論の成果を薄めることになっているのは、物足りなさを覚えるところです。

それでも、1920年に発足した日本運動協会を日本最初の職業野球団として扱うとった野球史に対する適切な理解や、球団拡張を16球団に止めず最終的には20球団制とすべきであると提起するなど(本書63頁)、建設的な議論の価値はいささかも損なわれるものではありません。

その意味でも、本書は、日本のプロ野球の来歴と現状を踏まえながら今後を見通すために学ぶべき点を多く有する一冊と言えるでしょう。

<Executive Summary>
Book Review: Takumi Anzai's "A 16-Team Expansion Plan of the Japanese Professional Baseball" (Yusuke Suzumura)


Mr. Takumi Anzai, a senior staff writer of The Nihon Keizai Shimbun, published a book titled A 16-Team Expansion Plan of the Japanese Professional Baseball from The Nikkei on 8th June 2020.

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