【書評】マンボウやしろ『あの頃な』(角川春樹事務所、2022年)

去る2月18日(金)、マンボウやしろさんの小説『あの頃な』(角川春樹事務所、2022年)が刊行されました。

本書は、新型コロナウイルス感染症の「誕生」に始まり、「コロナ下」の人々の姿や「コロナ後」の世界の様子、さらに新型コロナウイルスと人間の対峙などを主題とする書下ろしの短編25作からなります。

一見すると相互に繋がりの内容に思われる25編ながら、実際には「コロナ下」での出来事が未来の世界の背景として織り込まれるなど、綿密に練り上げられた構成は作品の魅力を高めます。

また、芸能界での活動から出発し、現在はラジオ番組の司会や舞台の脚本の執筆などを主たる活動の場とするという著者自身の経歴は、「ラジオのコロナ」や「鉄仮面」「闇コロナ営業」などの各章にいかんなく発揮されています。

その一方で、日々の光景が未知の世界への入り口となることを教える「役者と魂」や、人間そのものへの深い信頼を宿す「世界一のギタリスト」は、『ランゴリアーズ』や『トム・ゴードンに恋した少女』といったスティーヴン・キングの作品のように、冷徹な恐怖と豊かな人間性を巧みに融合させることに成功し、読者の注意を惹きつけて離しません。

もちろん、線の太い描写や日常的な語彙に基づく叙述などは、一面で初めて執筆された小説ゆえの、これからのさらなる変化を予告する特徴であるかもしれず、他面では職業小説家と最初の小説を上梓した作家との違いかもしれません。

しかし、時に世相を風刺し、時に何気ない出来事が世界の真理へと繋がることを示唆する豊かな発想力と創造性は本作の大きな魅力です。

その意味でも、『あの頃な』は、今後「コロナ文学」を考える際に不可欠な一策であるばかりでなく、他の様々な主題での創作活動への期待を高める一冊と言えるでしょう。

<Executive Summary>
Book Review: Manbou Yashiro's "Ano Koro Na" (Yusuke Suzumura)

Mr. Manbou Yashiro published book titled Ano Koro Na from Kadokawa Haruki Corporation on 18th February 2022.

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