サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果

去る7月20日(月)に発行された日刊ゲンダイの2020年7月21日号25面に、隔週で担当している連載「メジャーリーグ通信」の第73回「サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果」が掲載されました。

今回は、日本時間の7月24日(金)に開幕を迎えた大リーグにおいて、選手会と大リーグ機構・球団経営者による労使交渉がどのような意味を持っていたかを検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果
鈴村裕輔

大リーグの2020年の公式戦の開幕が日本時間の7月24日に迫っている。

今年3月に日程の変更が公表され、3月26日には5月下旬までの2か月分の給与について、年俸を日割りした額を保証することで選手会側と大リーグ機構とが合意した。

この時点では、残された問題は開幕日の設定という一点のみであり、新型コロナウイルス感染症の拡大の状況を見極められれば解決出来ると考えられていた。

だが、その後、機構と経営者側が「無観客での公式戦の実施という状況は3月当時と条件が異なるから、年俸の削減方法を変えるべき」と主張すれば、「双方が合意したのだから、機構も経営者たちも協定を遵守するのが当然」と選手会側も反発し、両者の溝は深まる一方だった。

最終的に機構側による「レギュラーシーズンを60試合制で実施する」という提案を選手会が否決したことから、6月22日にロブ・マンフレッドがコミッショナーとしての権限に基づき「7月24日前後に開幕し、試合数は60」という枠組みでの公式戦の実施を決定した。

一連の経緯を見れば、年俸の削減方法に関しては選手会側の「試合数に完全に比例させる」という主張が、試合数は選手会による「70試合制」ではなく経営者側の「60試合制」が適用されており、両者の対立は痛み分けとなったように思われる。

しかし、選手会にとっては、今回の交渉は最善ではないにしても次善の結果であった。何故なら、「収入を折半する」という機構・経営者側の案を頓挫させたからだ。

「収入の折半」とは試合数の減少に伴う選手の年俸の削減額を巡る交渉の中で出された案であり、選手に支払う年俸の上限を「球団の収入の半分」とすることは、実質的な年俸総額制(サラリーキャップ制)に他ならない。

大リーグは米国四大プロスポーツの中で唯一サラリーキャップ制を導入していない。また、経営者にとっては制度の実現が悲願であり、選手会にとっては阻止以外の選択肢はない。

もちろん、「かつてない非常事態だから」と妥協することもあり得るだろう。だが、2021年に新しい労使協定の交渉が控えている現状では、たとえ臨時の措置であっても実質的なサラリーキャップ制を認めれば、経営者側が「2020年に適用したのだから」と年俸総額に上限を設けることを既成事実とすることは明らかである。

その意味で、経営者たちの非常時にかこつけたサラリーキャップ制の導入を防いだことは、選手会にとって大きな成果だ。

そして、経営陣にとっては、今回の雪辱を晴らすべく、来年の労使交渉でサラリーキャップ制の実現を期すことになる。

両者の視線は、すでに2021年に向けられているのである。
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[1]鈴村裕輔, サラリーキャップ制阻止は選手会の大きな成果. 日刊ゲンダイ, 2020年7月21日号25面.

<Executive Summary>
Which Was the Winner of the Player-Management Conflict in the MLB? (Yusuke Suzumura)

My article titled "Which Was the Winner of the Player-Management Conflict in the MLB?" was run at The Nikkan Gendai on 20th July 2020. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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