【開催報告】野球文化學會第7回研究大会

本日、野球文化學會第7回研究大会が開催されました。会場は法政大学市ヶ谷キャンパス大内山校舎Y803教室でした。

今回も例年通り2部構成で行われ、第1部の研究発表では7名の会員の報告がありました。また、第2部のシンポジウムは「甲子園100年と高校野球」と題し、基調講演1件と一般報告3件が行われました。

研究発表の報告者と論題並びに外報は以下の通りでした(座長:中村哲也理事[高知大学])。


(1)伊藤正浩(野球地域史研究会・近代仙台研究会)/「試合前挨拶発祥の地記念碑」が建つまで-野球地域 史振興への活動事例報告-
仙台を発祥とする野球の「試合前挨拶」が「公認野球史」となり、さらに記念碑が設置されるまでの過程を自身の体験に基づいて検討した。

(2)高井正秀(野球文化學會)/1934年日米野球の草薙球場は眩しかったか
1934年11月20日の日米野球第10戦(草薙球場)での沢村栄治の快投について、「日光に直面したから打ち悩んだ」というベーブ・ルースの談話の妥当性を当時の気象条件などから検討した。

(3)鷲崎俊太郎(九州大学)/なぜ西鉄は球団の愛称にライオンズを選んだのか? -西鉄初代社長・村上巧児の経営方針からの分析-
「球団の愛称名は球団のメッセージが込められたもの」という考えに基づき、西鉄球団の愛称が「ライオンズ」となった経緯を、西鉄の初代社長である村上巧児の経営方針から分析した。

(4)松原弘明(電気通信大学)/プロ野球球団の〈市民球団化〉に対する内容分析:1980年代後半から2003年までの新聞3紙の報道を対象として
日本の新聞報道においてプロ野球団に対して〈市民球団〉という表現が用いられた頻度と記事の内容を1984年から2003年までの読売、朝日、毎日の3氏を対象に検討し、時代ごとの〈市民球団〉の含意の特徴を検討した。

(5)トレバー・レイチュラ(京都外国語大学)/日米プロ野球の通訳者
来日する外国人選手や渡米する日本人選手において過去の実績と実際の活躍とが関係しない点に着目し、通訳者が選手の成功にどのように寄与するかを聞き取り調査の結果に基づいて検討した。

(6)中間茂治(大阪府公立小学校)/中学野球から見た部活動地域移行がもたらす問題性~今後の中学校野球部の在り方について
2023年度から始まった中学校の運動部活動の地域移行について、弊害が強調される学校部活動のあり方を再検討することで、クラブチームの持つ問題点を明らかにするとともに、両者が選択肢として併存することが望ましいことを。

(7)石村広明(東京都立産業技術高等専門学校)/投球データを用いた高専男子学生の投能力解析の評価の試み
東京都立産業技術高等専門学校の1-4年生30名を対象に、遠投を回転数などの投球データから評価した結果、オーバーヘッドポジションでの運動経験の有無が投球動作における腕の振りの強さや巧緻性に影響を与えている可能性が推察された。


また、第2部のシンポジウムの登壇者と論題並びに概要は以下の通りでした(座長:鈴村裕輔会長[名城大学])


(1)基調講演
田名部和裕(公益財団法人日本高等学校野球連盟顧問)/高校野球:改革の契機
1968年の第50回全国高等野球選手権大会以降50年間の高校野球の「改革の契機」を検討し、高校球界にとって大きな改革の契機となったのが1995年の阪神・淡路大震災であり、その知見が現在にまで生きていること、「高野連は頭が固い」と思われがちなものの、実際には柔軟に改革を行っていることが紹介された。

(2)一般講演(1)
中村順司(元PL学園高等学校野球部監督)/甲子園と私
1976年にコーチとして母校PL学園高等学校野球部に復帰し、1980年8月に監督に就任して以降の甲子園での戦績と各時代の取り組みを概観するとともに、PL学園時代に指導をした生徒が現在のプロ野球界で中心的な指導者となっていることから、今後もその活躍を外から眺めてゆきたいという考えが示された。

(3)一般講演(2)
向井格郎(阪神甲子園球場長)/開場100周年を迎える阪神甲子園球場~100年の歴史と記念事業~
関西のみならず日本全国から広く支持される存在である「甲子園」の歴史と2022年8月から始めた100周年記念事業"KOSHEN CLASSIC"の概要が説明され、日本のスポーツ文化に留まらない価値と魅力を備え、フェンウェイパーク、リグレーフィールドに次いで世界で3番目に古い、現存する球場として次の100年に向けて歩み出す決意が示された。

(4)一般講演(3)
安藤嘉浩(元朝日新聞編集委員)/阪神甲子園球場生誕100周年に寄せて
朝日新聞に掲載された甲子園の特集記事「あの夏」や「甲子園の魔物をたどって」に基づき、甲子園とい場の持つ独特の雰囲気の実際の姿が検討されるとともに、阪神甲子園球場が枝川と申川を廃川にした後の三角州に建てられたという地理的特徴の意味が検討された。


「甲子園100年」という節目の年に、日本のスポーツ文化を考える際に欠かせない「甲子園」の価値を多角的に検討した今回の研究大会は、野球の奥行きの深さと広がりを示すとともに、野球文化学の発展に寄与するものでした。

また、会場には会の内外から50名を超える方が来場し、学会の活動への関心の高さが窺われました。

なお、今回の研究大会の概要については学会誌『ベースボーロジー』第18号に掲載される予定です。

<Executive Summary>
The Forum for Researchers of Baseball Culture the 7th Research Conference (Yusuke Suzumura)

The Forum for Researchers of Baseball Culture held the 7th Research Conference at Hosei University on 28th January 2024.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?