日本研究で大切な「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡し

去る2011年4月20日(水)、法政大学大学院国際日本学インスティテュート専攻委員会のウェブサイト「国際日本学へのいざない」に私の随筆「一週一話」の第8回「日本研究で大切な「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡し」が掲載されました。

現在「国際日本学へのいざない」は閲覧できず、「日本研究で大切な「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡し」も当時の私の一知半解的な態度の名残りを残しています。

その一方で、「国際日本学の可能性は何か」あるいは「日本研究とは何か」という問いに対する、一つの方向性が示されているようにも思われます。

そこで、以下に「日本研究で大切な「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡し」をご紹介します。

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日本研究で大切な「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡し
鈴村裕輔

前回の本欄でもお伝えしたように、去る3月31日から4月3日まで行われたアジア研究協会(AAS: Association for Asian Studies)とアジア研究者会議(ICAS: International Convention of Asia Scholars)の合同大会に参加しました。私は、他の研究者5人との共同で"Art, East Asian Spiritualities and Performance: Crossing Time, Metamorphoses and Strategies"というセッションに参加し、発表を行いました。

私の論題は'Concept of kami in Japanese Animation and Comic: Late 20th Century Japanese Thought and Popular Culture'で、神道における神の概念が20世紀後半の日本のアニメーションや大衆文化にどのような形で見出すことができるか、というのが、発表の眼目でした。

この発表では、まず前半で「畏敬の念を抱かせるものすべてを神としてみなす」という、神道における伝統的な神の概念から出発し、スサノオとアマテラスの誓約の逸話から神道における神と悪の関係を概観し、神と自然現象、神と人間、あるいは神と自然の関わり方を検討しました。そして、後半で、「20世紀の日本のアニメーションにおいて神道の神の概念はどのように見出されるか」という実例として、宮崎駿の映画『もののけ姫』(1997年)と鳥山明の漫画『ドラゴンボール』(1984-1995年)を取り上げました。

具体的には、『もののけ姫』ではタタリガミがなぜ「カミ」と呼ばれるのかを、『ドラゴンボール』では地球の神が悪の権化ともいうべきピッコロ大魔王と同体であったことと神がナメック星人という「エイリアン」であったことを手がかりとして、現代の日本のアニメーションの中にも神道的な神の考え方が見出されること、神道は決して古色蒼然とした土俗的で素朴な宗教的な態度ではなく、様々な形をとりながら現在のわれわれの大衆的な文化の中にも何らかの影響を与えていること、を指摘しました。

15分間の発表では委曲を尽くすことはできなかったかもしれませんが、6人の発表がすべて終了した後の質疑応答と、セッション後の懇話の中で、聴衆から質問や感想が寄せられたのは、発表者として大変嬉しいことでした。

そのよう質問や感想の中で印象的だったのは、「神道には教義や原理がないから理解しにくい」というものでした。ピッケンがその著書Essentials of Shinto? (Greenwood Publishing Group, 1994)の中で日本の宗教は観念よりはむしろ感情に、教義よりはむしろ経験に基づいている」と指摘した特徴が、日本を外から眺める人たちには神道の理解を妨げているのか、と実感したものです。

その意味でも、「日本の文化」を外国に伝えるためには、「精神的な文化」と「大衆的な文化」あるいは「文化の精神性」と「文化の大衆性」の間の橋渡しが不可欠である、といえるのではないでしょうか。
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<Executive Summary>
Bridging "Spirituality of Culture" and "Popularity of Culture" Is an Important Element for Japanese Studies (Yusuke Suzumura)

I contributed an essay entitled with "Bridging "Spirituality of Culture" and "Popularity of Culture" Is an Important Element for Japanese Studies" on Introduction to International Japanese Studies on 20th April 2011. In this time, I present an essay to readers of this weblog.

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