「エンゼルス売却」は実現するか

現地時間の8月23日(火)、大リーグロサンゼルス・エンゼルスの筆頭所有者であるアート・モレノ氏が球団の売却を検討していることを表明するとともに、金融アドバイザーとしてガラティオート・スポーツ・パートナーズを雇い、球団の価値の査定の手続きに入りました[1]。

一代で広告業界での成功を収め、2003年にエンゼルスを買収してメキシコ系米国人として初めて大リーグ球団の所有者となったモレノ氏は立志伝中の人物であるとともに、私財を投じて本拠地の整備や選手の獲得などに注力するなど、現在の球界の主流である球団を投資の対象とする所有者と一線を画すかのような、個性豊かな存在でもあります。

また、球団の運営や選手の獲得などでも社長以下の実務者たちに任せるのではなく、最終的な決定権を保持し続ける姿は、ある意味で2010年に逝去し、巨額の資金を投じるとともに球団経営の細部まで指示を出すことで広く知られたニューヨーク・ヤンキースのジョージ・スタインブレナー3世氏を連想させるものです。

そのようなモレノ氏が球団の売却の可能性を示したことは球界関係者には意外な出来事として受け止められ、様々な観測がなされています。

モレノ氏が家族と検討し、現在が売却すべき時機である旨を指摘していること[1]を考えれば、現在76歳の同氏が健在なうちに球団を手放すことで少数株主として名誉ある地位を得ようとする、あるいは今回の売却が成立した後に他の球団を購入するといった判断に基づいて行動していることが推察されます。

あるいは、今年5月に球団が所在するカリフォルニア州アナハイム市のハリー・シドゥー市長がエンゼル・スタジアム周辺の再開発を巡る不正疑惑により辞任したことで計画が撤回され、2050年までエンゼルスがああハイムを本拠地とするという契約も破棄されたこと[2]で、モレノ氏が球団の経営への意欲を低下させ、結果として今回の売却の方針の表明に繋がったとも考えられます。

一方、2003年の購入時に比べて現在の球団価値が上昇し、高額での売却が可能であるとはいえ、長年密接にかかわってきたエンゼルスをモレノ氏がにわかに手放すとは考えにくいのも事実です。

このとき、シカゴ・ホワイトソックスの球団所有者であるジェリー・ラインズドルフ氏が新球場建設問題で非協力的なイリノイ州とシカゴ市の態度に業を煮やし、フロリダやポートランドやラスベガスへの移転の可能性を示唆しながら市当局と交渉を重ねる、最終的に建設費の全額を公費負担として新コミスキー・パークの開場に成功した事実を参照すればどうなるでしょうか。

今回のモレノ氏も球団の売却の方針を示するとともに、新たな所有者が本拠地をアナハイム市から移せる状況にある点を強調し、市側からより有利な条件での再開発計画の策定などの実利を得ようと考えても不思議ではありません。

もちろん、モレノ氏の手腕を過剰に評価することは実態を見失わせることになります。

しかし、球団の売却まで一定の期間を要すると発言したように、当局との交渉の余地を残している点を些事と捉えることも、やはり状況の適切な理解を妨げかねません。

それだけに、われわれは予断を排して今後の推移を見守る必要があるでしょう。

[1]Angels owner Arte Moreno exploring option of selling the team. Los Angeles Times, 23rd August 2022, https://www.latimes.com/sports/angels/story/2022-08-23/arte-moreno-angels-sale (accessed on 24th August 2022).
[2]Angels agree to Anaheim's request to abandon Angel Stadium sale. Los Angeles Times, 27th May 2022, https://www.latimes.com/sports/angels/story/2022-05-27/angels-anaheim-request-to-cancel-angel-stadium-deal (accessed on 24th August 2022).

<Executive Summary>
Will Angels' Owner Arte Moreno Sell the Team? (Yusuke Suzumura)

Yesterday Mr. Arte Moreno, the Owner of the Los Angeles Angels, says that he has a plan to sell the team. On this occasion we examine a possibility of Mr. Moreno's option.

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