NHK交響楽団第1961回定期公演

去る7月1日(金)、NHK FMでNHK交響楽団が6月22日(水)に行った第1961回定期公演の実況録音の放送を鑑賞しました。会場はサントリーホールでした。

今回は、前半が鈴木優人の編曲によるバッハの『パッサカリアとフーガ』、ブリテンのヴァイオリン協奏曲、後半がモーツァルトの交響曲第41番でした。ヴァイオリン独奏は郷古廉、指揮は鈴木優人でした。

2019年以来、NHK響の定期公演に指揮者として招聘されるようになった鈴木は、それ以前にはオルガン独奏者として共演しており、今回はバッハの編曲を手掛けています。その意味で、この日の公演は鈴木がある種の才人であることが改めて示される機会となりました。

ストコフスキーの編曲が広く知られ、レスピーギも行った『パッサカリアとフーガ』は、原曲は一つながら編曲者の特徴がよく示される作品でもあります。

そのような中で鈴木はより控え目でいながら、それでいてバッハの描こうとした芯の太い音楽を再現するために繊細な注意を払っていたことが推察されました。鈴木版の『パッサカリアとフーガ』が人口に膾炙しているとはいいがたいだけに、これからより多くの団体が取り上げるようになれば、その魅力が様々な視点から検討され、作品として定着することになることでしょう。

第2曲目のブリテンはヴァイオリン協奏曲そのものとしての知名度の高さでは劣るものの、チャイコフスキーやメンデルスゾーン、あるいはシベリウスといった作曲家たちの作品に比肩しうる個性を持つ作品です。

鈴木と郷古という指揮者と独奏者の組み合わせで臨んだ結果、滑らかな語り口となったのは、ブリテンが範をとったバッハに通じた鈴木の腑分けの巧みさの故であろうと考えられます。そして、そのために1930年代にバッハを参照したというブリテンの問題意識が後景に退いたのは、今後の演奏の上での課題の一つと言えるでしょう。

一方、モーツァルトは絶えず微笑みを湛えた演奏で、NHK響が音量の大きさだけでなく機動力の高さを誇る楽団であることを改めてわれわれに教えました。

このように、今回の公演は指揮者の現在の位置と楽団の能力とを示す、楽季のおわりにふさわしい公演であったと思われました。

<Executive Summary>
Stage Review: NHK Symphony Orchestra the 1961st Subscription Concert (Yusuke Suzumura)

The NHK Symphony Orchestra held the 1961st Subscription Concert at the Suntory Hall on 22nd June 2022 and broadcasted via NHK FM on 1st July 2022. In this time they performed Bach's Passacaglia and Fugue, Britten's Violin Concerto, and Mozart's 41st Symphony. Solo violin was Sunao Goko and conductor was Masato Suzuki.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?