「2年ぶりの党首討論」の意味は何か

本日、国会で国家基本政策委員会合同審査会が開催され、2019年6月19日以来となる党首討論が開催されました。

質問に立ったのは立憲民主党の枝野幸男代表、日本維新の会の片山虎之助代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、日本共産党の志位和夫委員長でした。

今回は時節柄、新型コロナウイルス感染症への対策と東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否が話題の中心となりました。

菅義偉首相に対する答弁の中で最も注目すべきは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種について、希望者全員への接種を今年10月から11月には終えたいという予定を明らかにしたこと[1]でしょう。

今年9月の自民党総裁選挙前に総選挙を行い、自らの進退が取り沙汰されるより先に党内の統制を図る方が菅首相にとっては好ましい戦略であるだけに[2]、希望者へのワクチンの接種が完了する時期を当初の計画よりも前倒しすることは自らの指導力と政府による新型コロナウイルス感染症対策の成果を強調して世論の支持を集め、総選挙に臨もうとする戦術を反映していると言えるでしょう。

その意味で、党首討論での発言により、総選挙の時期が自民党総裁選の前となる可能性が高まったことが推察されます。

一方、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非に関するやり取りでは、1964年の東京大会にまつわる自らの体験に基づき、来る大会を開催する意義を強調したものの、個人的な感想と防疫政策との間の関連性は乏しく、情緒的で張っても説得力に欠ける内容でした。

大会の参加者を発端とする感染の拡大だけでなく、東京オリンピック・パラリンピックを実施するによって感染の拡大がもたらされる場合の対応について問われたにもかかわらず「安心・安全な大会の実施を目指す」と答えるのみで懐旧談を述べることは、答弁の説得力を失わせます。

それだけに、菅首相は東京オリンピック・パラリンピックの開催を巡る問題で自らの指導力の発揮を強調する格好の機会を逸したと言えるでしょう。

いずれにせよ、野党各党の党首による質問と菅首相による答弁とが対応する場面は必ずしも多くなく、与党の支持者にとっては落胆の、野党の支持者にとっては失望の嘆息が聞こえてくるかのような今回の党首討論は、改めてわれわれに党首討論の活性化の必要さを示しました。

そして、この点が、今日の党首討論の唯一にして最大の収穫であったと言えるでしょう。

[1]国家基本政策委員会合同審査会(党首討論). 衆議院, 2021年6月9日, https://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&media_type=&deli_id=52455&time=808.5 (2021年6月9日閲覧).
[2]鈴村裕輔, 「総裁選前解散」は菅義偉首相にとって好ましい戦略か. 2021年4月9日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/2738cc6881dc07627c9a5b2969570077?page_id=2804 (2021年6月9日閲覧).

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Debate of Party Heads? (Yusuke Suzumura)

Debat of Party Heads is held at the Joint Session of the Both Diet on 9th June 2021. In this occasion we examine a meaning of this debate focusing on replies of Prime Minister Yoshihide Suga.

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