『N響ザ・レジェンド』とディーン・ディクソンが描き出した日本の交響管弦楽史の一側面

昨夜は、19時20分からNHK FMで『N響ザ・レジェンド』を聴取しました。

今回は「一期一会の音楽家たち」と題し、1968年1月から2月にNHK交響楽団を指揮したディーン・ディクソンの実況録音が紹介されました。

この日放送されたのは、1968年1月16日の第496回定期公演からプロコフィエフの組曲『キージエ中尉』、同じく1月31日の第498回定期公演からマルティヌーの「2つのオーケストラのための協奏交響曲」とブルックナーの交響曲第1番(リンツ稿ハース版)でした。

来日時はヘッセン放送交響楽団の常任指揮者を務めていたディクソンは、当時世界で唯一の黒人指揮者と呼ばれていました。

人種差別が行われていた米国において、黒人であるという理由で正当な評価がなされないと感じていたディクソンは1949年に渡欧し、エーテボリ交響楽団やシドニー交響楽団の首席指揮者を歴任しており、欧州の楽団が主たる活動の場でした。

NHK交響楽団の定期公演での指揮ぶりについては「きわめて知性的」、「知的ではあるが、一面においてねばっこい粘液質の感覚」、タフな力」と評されています[1]。

こうした演奏会での評価に違わず、ディクソンの指揮ぶりは丹念で、演奏者との相性の良さも窺われる仕上がりでした。

ところで、この日の放送の副題である「一期一会」は実に意義深いものでした。

何故なら、NHK交響楽団がマルティヌーの「2つのオーケストラのための協奏交響曲」を定期公演で取り上げられたのはこの時だけでしたから、演奏曲目の点でも「一期一会」であったと言えます。

また、韓国のKBS交響楽団を創設し、「韓国クラシック音楽界の父」とも称される指揮者の林元植は1944年に朝比奈隆に指揮法を師事するとともに、渡米してジュリアード音楽院に学んだ際には、2年間ディクソンに指導を受けています。このような師弟関係も、文字通り「一期一会」の間柄でありました。

その意味で、今回の放送はディーン・ディクソンという一人の指揮者を通して、日本の交響管弦楽の歴史の一端が明瞭に描き出された、貴重な回であったと考えられるのです。

[1]難関越えた大橋. 読売新聞, 1968年1月20日夕刊7面.

<Executive Summary>
"NHK Symphony Orchestra the Legend" Shows One Aspect of the History of Japanese Orchestra with Charles Dean Dixon (Yusuke Suzumura)


A radio program of the NHK-FM entitled with "NHK Symphony Orchestra the Legend" was on the air on 24th October 2020. In this time records of the 496th and 498th Subscription Concert of the NHK Symphony Orchestra conducted by Charles Dean Dixon.

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