「労使交渉の決裂」は大リーグにいかなる未来をもたらすか

現地時間の2月28日(月)、大リーグ機構及び球団経営陣と大リーグ選手会(MLBPA)とによる労使協定の改定交渉が決裂し、2022年の公式戦の開幕が4月7日(木)に変更されるとともに、暫定的に156試合制で実施されることになりました[1]。

労使双方の主張の隔たりが大きく、特にMLBPA側が強く要求している、各球団の年俸総額に対するいわゆる贅沢税の課税基準額の引き上げ問題について、歩み寄りがない点は、事態の早期の解決を困難にする最大の要因でした。

これは、一面においてMLBPAが大リーグに所属する選手の権利の擁護と増進を重視し、実質的な年俸総額制として贅沢税の課税基準額を活用する経営陣に対する不信感を強めた結果と言えます。

このとき、MLBPAは自らの利益を優先して交渉の妥結のための譲歩を拒んだと考えることができます。

その一方で、経営陣が詳細な財務状況を公表せず、経済専門誌Forbesやアメリカ野球学会などの調査による間接的な情報がほとんど唯一の手掛かりとなっている現状に即せば、労使双方の間の情報の非対称性が問題を複雑にしていることが分かります。

すなわち、MLBPA側は経営陣が不正確な情報に基づいて意図的に経営状況の悪化を印象付け、交渉を有利に導こうとしていると考えているのです。

労使交渉の決裂による開幕日の変更と試合数の削減は、1995年以来27年ぶりです。

大リーグ史上未曽有の労使紛争となった1994年から1995年のストライキでは、最終的に経営陣が1994年8月の選手年金基金への球団負担分の金額を払い込まなかったことを不当労働行為とした選手会が全米労働関係委員会(NLRB)に提訴し、NLRBが労使双方に誠意をもって交渉することを命じたことで解決に至りました。

今回も最終的には法的な争いにより決着することになるかも知れません。

しかし、1995年当時に比べ、大リーグを取り巻く環境は厳しさを増し、他の競技だけでなく、人々の趣味の多様化によって野球の存在感は低下を余儀なくされています。

こうした中で労使が妥協を厭い、徹底した対立を止めないなら、球界そのものの将来は暗澹たるものとならざるを得ないでしょう。

水面下での交渉と対立の早期の解決が願われるばかりです。

[1]Baseball Schedule. Major League Baseball, 1st March 2022, https://www.mlb.com/schedule/2022-04-05 (accessed on 2nd March 2022).

<Executive Summary>

Labour Dispute Will Bring an Undesirable Future for the MLB (Yusuke Suzumura)

The Major League Baseball announces that the opening day of the 2022 season is postponed to 7th April and number of games is reduced from 162 to 156 on 1st March 2022. In this occasion we examine a meaning of labour dispute in the MLB and the future of the baseball society.

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