わがかそけき「最初のNHKホール」の思い出

今月からNHKホールは2022年6月までの予定で休館し、天井の耐震性を高める改修や設備更新などの工事を開始しました。

日本放送協会がNHKホールの新築ではなく改修を選んだということは、NHKホールがやがてはウィーン楽友協会やプラハの芸術家の家のように20世紀後半の日本の演奏会場を代表する可能性を残したことになるという点については、すでに本欄の指摘するところです[1]。

ところで、私がNHKホールに初めて足を運んだのは1994年3月4日(金)のことで、NHK交響楽団の第1226回定期公演を鑑賞した折でした。

この時は、高校の同級生で部活動である青山フィルハーモニー管弦楽団でも一緒の友人の師事する方がNHK響の団友で、その先生から頂いた入場券を譲り受けて鑑賞した、という次第でした。

団友用に手配された席ということもあって鑑賞したのはNHKホール1階のS席であり、通路を挟んで隣の列にNHK教育テレビの番組『N響アワー』で画面越しに目にした奏者が鑑賞しているのを見て、感慨深く思ったものでした。

この時はハインツ・ワルベルクの指揮によるロッシーニやビゼー、ブラームスの小品の特集で、私が実際に演奏したロッシーニの歌劇『セビリアの理髪師』序曲も含まれていました。専門家と愛好家の譜面の理解や演奏方法の違いなどを実感できたのはよい機会と言えました。

また、会場で配布された機関紙『フィルハーモニー』の今後の定期公演の案内欄を見たところ、1994年4月はジャンルイジ・ジェルメッティの指揮によるチャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』、5月はミシェル・プラッソンの指揮するビゼーの交響曲第1番、6月は朝比奈隆によるベートーヴェンの交響曲第5番『運命』と、Cプログラムに興味深い指揮者と曲目の組み合わせが並んでいました。

こうした曲目を見たことでCプログラム第1日目の定期会員になることを決め、休憩時間に入会の手続きを済ませて現在に至るのですから、初めて訪れたNHKホールの効果は大きなものであったということが出来るでしょう。

私の、かそけき「最初のNHKホール」の思い出です。

[1]鈴村裕輔, 歓迎すべきNHKホールの休館. 2019年4月10日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/faef79d03ad822670070f6e0283ff2ab?frame_id=435622 (2021年3月23日閲覧).

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of the NHK Hall (Yusuke Suzumura)

The NHK Hall at Shibuya is temporary closed in March 2021 through June 2022. In this occasion I remember my first experience of the hall.

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