米金融不安で今オフ、ダメージを受けるのはどんな選手か

去る5月8日(月)、日刊ゲンダイの2023年5月9日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第138回「米金融不安で今オフ、ダメージを受けるのはどんな選手か」が掲載されました[1]。

今回は、今年3月のシリコンバレー銀行の破綻に始まる米国の金融不安を手掛かりに、米国経済の先行きが大リーグの球団経営と選手に与える影響を検討しました。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


米金融不安で今オフ、ダメージを受けるのはどんな選手か
鈴村裕輔

大リーグ球団の経営に携わることは、「もうかる商売」を行っていることと同義である。

2021年のアトランタ・ブレーブスを例にとれば、年間で1億400万ドルの収益があり、1試合当たり600万ドルの売り上げがあると指摘されている。これなどは、「もうかる商売」が実際にどの程度もうかるかを示している。

ただ、今年3月のシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻に始まる米国の金融不安は、「もうかる商売」に携わっているはずの経営者たちの行動に影響を与えることが予想される。

金融大手バンク・オブ・アメリカによる月例調査で投資家の金融不安に対する見方が強まったことからも、関係者の間では米国経済の動向を悲観視する考えが浸透していることが分かる。

今回の調査はSVBの破綻前に行われた。それだけに、米国内の中規模銀行の相次ぐ破綻や地域銀行の経営危機、あるいはクレディ・スイスの破綻とUBSによる救済買収などの世界的な金融不安によって、投資家の心理が一層弱含みになっているのが現状である。

こうした様子は、2008年のリーマン・ショックに始まる金融危機を連想させる。

大リーグの公式戦の総来場者数は、2009年には前年よりも約500万人少ない約7343万人となり、金融危機が家計に影響を与えたことを推察させた。

しかも金融危機による不況が収束し、2009年6月からは景気が拡大局面を迎えても観客動員数は伸び悩んだため、各球団は大型の補強を控えるなど、消極的な経営を行うようになった。

その結果、2009年のオフのフリー・エージェント市場は買い手有利となり、ジャロッド・ウォッシュバーンのような中堅選手の間で、契約に至らず引退する事例が起きている。

今回の金融不安の場合はどうだろうか。

現在、米国では雇用が市場の予測よりも拡大し、平均時給も上昇している。そのため、連邦準備理事会(FRB)は過剰な雇用の拡大と平均時給の上昇は物価騰貴を加速させるとして、インフレ抑制を優先させる姿勢を示している。

SVBの破綻はFRBによる高金利政策への対応の遅れが原因であった。これは、今後も十分な適応力のない金融機関が破綻する可能性を示唆する。

そうなれば、従来は中程度の成績の選手でも大型の契約を結べた売り手市場は姿を消し、今オフの各球団は2008年の金融危機後のように積極的な補強を見合わせることになる。

この時、群を抜く実績を残す大物選手か安い年俸でも契約できる若手選手に比べ、実力よりも高めの契約と思われている選手が行き場を失うことになりかねない。

その意味で、これから契約更新の時期を迎える選手のうち、少なからぬ者にとっては厳しい交渉が待っているのである。


[1]鈴村裕輔, 米金融不安で今オフ、ダメージを受けるのはどんな選手か. 日刊ゲンダイ, 2023年5月9日号27面.

<Executive Summary>
The US Financial Crisis Has an Important Impact to the MLB Players and Their Contract Negotiations (Yusuke Suzumura)

My article titled "The US Financial Crisis Has an Important Impact to the MLB Players and Their Contract Negotiations " was run at The Nikkan Gendai on 8th May 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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