「与党による入管法改正案の今国会成立の断念」が持つ意味は何か

5月18日(火)、与党は出入国管理法の改正案の今国会での成立を断念しました[1]。

これは、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種の遅れや緊急事態宣言の延長により菅義偉内閣の支持率が低下の傾向を示す中で、採決に固執することで今年7月の東京都議会選挙や今年10月までに行われる予定の衆議院選挙に悪影響を及ぼすことを懸念しての措置となります。

各種の世論調査でも回答者が政権の最優先課題として挙げる事項が新型コロナウイルス感染症への対策であり、出入国管理法の改正に対する社会的な関心も要望が高くないことを考えれば、有権者の注意が向けられない事項を優先的に取り扱うことで与野党の対立が明確になり、「強行採決」といった印象を与えることは得策とは言い難いものです。

その一方で、外国人の入国管理局の施設での長期間の収容を防ぐことを主眼とする出入国管理法の改正については多くの日本国民にとって関わりが深くない話題であるだけに、国民の関心が低い段階で改正を実現させようとする政府の思惑はある意味で妥当なものでした。

従って、今回の判断により政府の計画が修正を余儀なくされただけでなく、人々の注目と関心を集めたことで、次回の国会で直ちに改正に着手することは困難の度を増すと推察されます。

ところで、難民認定申請中は送還を停止する規定に例外を設け、3回目以降の申請から送還できることなどが盛り込まれた改正案については、人権を侵害するという批判がなされています[1]。

確かに、送還に関する例外規定が濫用されれば、外国人の不法な滞在が法的に許容されることになります。

しかし、どのような申請が正当であり、いかなる申請が不当であるかを截然と分類することが容易でない限り、機械的な対応が人権の侵害に繋がる可能性は排除できません。

しかも、日本は前文において「難民問題の社会的及び人道的性格」に注意を払うことを強調する「難民の地位に関する条約」に締結しているのですから、条約の精神にもとると考えられかねない安易な対応は慎まねばなりません。

その意味からも、今後、政府がどのような改正案を国会に提出するか注目されます。

[1]入管法改正案 成立を断念. 日本経済新聞, 2021年5月19日朝刊4面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Government's Decision to Renounce the Amendment of Immigration Control and Refugee Recognition Act? (Yusuke Suzumura)

The Japanese Government decided to renounce the amendment of Immigration Control and Refugee Recognition Act on 18th May 2021. In this occasion we examine a meaning of the decision.

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