「若手指揮者の抜擢」が進む2023年度の各楽団の人事はいかなる意味を持つか

現在、日本国内の各職業楽団のうちで2023年4月から新年度を迎える団体が、順次新楽季の公演の概要や人事を発表しています。

これまでのところ、名古屋フィルハーモニー交響楽団が正指揮者の川瀬賢太郎を音楽監督とし、京都市交響楽団が沖澤のどかを常任指揮者に迎え、九州交響楽団が太田弦を首席指揮者に招聘するなど、各地の楽団で注目すべき人事がなされています。

名古屋フィルと九州響については、両団で音楽監督を務めている小泉和裕が退任するのに伴い、前者では川瀬が昇格し、後者ではこれまでの共演の実績から太田が選ばれた形です。

また、三者の中で最も興味深いのは沖澤で、これまで日本の内外の楽団で指導的な地位に就いたことがなく、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団で芸術監督のキリル・ペトレンコの助手を務めていましたから、文字通り抜擢であることが分かります。

何より、1度の共演によって登用が決まったという経緯[1]を考えれば、沖澤の能力とともに、京都市響の意欲的な人選の様子が分かります。

もちろん、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって外国を拠点とする指揮者を招聘することの危機管理上の問題を無視できない状況を考えれば、日本国内で活動する指揮者を新しい指揮者の選定対象とすることは合理的な判断と言えるでしょう。

しかし、その際にすでに実績と知名度を備えた指揮者ではなく、「若手」に分類される人物を起用することは、各団体が一面において話題性を追求するとともに、他面においてはこれらの指揮者と長期的な関係を築き上げたり、新しい方向を目指していることを推察させます。

何より、「コロナ禍」によって従来定期公演などに登場する機会に乏しかった指揮者が活躍の場を得るとともに、さらなる境地に達することは、指揮者界の活性化に資すると言えるでしょう。

それだけに、新年度にどのような演奏が行われるのか、また、今回の人事がこれから他の団体にどのような影響を与えるのか、大いに注目されます。

[1]京響の常任指揮者 沖澤のどか就任へ. 朝日新聞, 大阪版, 2022年7月21日夕刊3面.

<Executive Summary>
New Conductors Bring New Phase for Professional Orchestras (Yusuke Suzumura)

Some professional orchestras in Japan, the Nagoya Philharmonic Orchestra, the City of Kyoto Symphony Orchestra and the Kyushu Symphony Orchestra, invite young conductors as the Chief Conductor or the Music Director. On this occasion we examine a meaning of such decision for the future of Japanese orchestras and conductors.

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