早期の単行本化が待望される日本経済新聞朝刊の連載小説『ふりさけ見れば』

安部龍太郎さんが日本経済新聞の朝刊に連載している小説『ふりさけ見れば』が、本日の第567回で最終回を迎えました。

古代における日本と中国の関係を縦糸、遣唐使を横糸、『魏略』第三十八巻を背景として、阿倍仲麻呂と吉備真備の青年期から最期までの50年にわたる物語を描いたのが本作です。

多民族国家としての唐王朝という舞台の中では、英邁な君主であった玄宗が楊貴妃に耽溺することで佞臣の台頭を許す過程と、支配民族としての漢族と被支配者としての「雑胡」との相克の帰結としての安史の乱が重要な役割を果たし、日本の場面では仏教と律令制とによる天皇中心の国家作りと藤原氏の台頭が話題の中心となります。

そこに、阿倍仲麻呂の従者である羽栗吉麻呂の子どもである翼と翔の兄弟を仲麻呂の子とし、吉備真備と唐人の女性との間に生まれたという伝承もある朝野魚養を真備の実子の名養とするなど、虚実を巧みに縫い合わせるのは、作者の構成力の高さを堪能できる場面の数々です。

構成力については、題名が由来する阿倍仲麻呂の詠んだ「天の原 ふりさけ見れば 春日なる」の一首が初めて登場するのが第482回目であったことも、力強く証明するところです。

一方、歴史小説であっても執筆された当時の世相を反映するという点では、第223回において、痘瘡流行の中で遣新羅使を入京させた藤原武智麻呂を「国内の政情が行き詰まれば、外に敵を求めて内部の結束をはかるのは独裁者の常套手段である」と描いており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大と政治家や行政機関による対応を考えると、「コロナ禍」だからこそこうした内容が生み出されたと言えるでしょう。

このように、『ふりさけ見れば』は各話が大変興味深いものであり、一日も早い単行本化が期待されるところです。

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of Ryutaro Abe's "Furisake Mireba" (Yusuke Suzumura)

A serial novel "Furisake Mireba" for the Nihon Keizai Shimbun written by Mr. Ryutaro Abe concludes on 28th February 2023. It is remarkable novel which describes active figures of people both in Japan and China of the 8th century with their historical and cultural communication.

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