山際大志郎国務相の発言が示す岸田内閣の綱紀弛緩

昨日、松野博一官房長官は参議院議員通常選挙での演説を巡り、「野党の人から来る話はわれわれ政府は何一つ聞かない」と発言した山際大志郎国務大臣を注意しました[1]。

選挙戦での演説という、目の前にいる聴衆の反応が即座に分かる場面では、人々の耳目をひきつけるためにしばしば過剰な表現や針小棒大的な話が行われることは、われわれのよく知るところです。

その意味で、山際国務相も目の前に集まった聴衆の歓心を得るとともに自民党や与党に投票することの利点を強調しようと、今回の発言に至ったことが推察されます。

一方で、たとえ選挙戦であるとしても、何を言ってもよいというわけではないことは、例えば2000年の総選挙で森喜朗首相が「無党派層は寝ていて」と発言して人々が顰蹙し、2017年の都議選に際して安倍晋三首相が演説を妨害する声に「あんな人たちに負けるわけにはいかない」と応じて批判を受けたことからも容易に推察されます。

しかも、「野党から来る話は聞かない」という発言は、単に野党を無視するだけでなく、野党も構成員である立法府を軽視する態度に他ならず、行政府の一員である山際国務相としては、失言ではなく妄言の類となります。

本来であればこうした発言はいかなる場面であっても不適切なものであり、政府は綱紀粛正の観点からも山際国務相を厳しく罰すべきです。

しかしながら、官房長官による注意に留まったことは、関係者が事態を深刻に受け止めていないだけでなく、軽微な処分を行うことで可能な限り事柄を小さく見せようとしていることが示唆されます。

それとともに、野党が反対党として政権を脅かすだけの力量を欠いていることも、こうした発言を引き起こす一因であることも明らかです。

何より、岸田文雄首相は「聞く力」を標榜し、国民の声に耳を傾けるとしているのですから、採否は別として、国民各層の代表者である野党の声にも耳を傾けなければなりません。

従って、政権には山際氏の発言があくまで不心得者の妄言であることを、今後の野党との対話によって実証する努力が求められるとともに、野党にとっても与党側に軽んじられないよう実力を養うことが不可欠になります。

[1]経済再生相「野党から来る話、政府は聞かない」. 朝日新聞, 2022年7月5日朝刊23面.

<Executive Summary>
State Minister Daishiro Yamagiwa's Speech Shows the Relaxation of Administrative Discipline of the Kishida Cabinet (Yusuke Suzumura)

Yesterday State Minister Daishiro Yamagiwa was warned by his incorrect speech at the campaign for the House of Councilors. It seems that the Kishida Cabinet is facing a situation of relaxation of administrative discipline, since he mentioned that "there is no need for the Administrative Parties ignore the demands by the Opposition Parties".

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