團伊玖磨の芸術の奥行と幅の広さを示した『クラシックの迷宮』の特集「團伊玖磨の軌跡」

今夜のNHK FMの『クラシックの迷宮』は、今年4月7日に團伊玖磨が生誕100年を迎えたことを記念し、特集「團伊玖磨の軌跡~生誕100年に寄せて~」が放送されました。

童謡『ぞうさん』や合唱曲『筑後川』、あるいは歌劇『夕鶴』で広く知られるとともに、随筆『パイプのけむり』でも知名な團伊玖磨ではあるものの、その他の作品が演奏会で取り上げられる機会はまれで、録音の数にも限りがあり、放送で紹介されることも決して多くありません。

しかし、世界の音楽界の最新の動向をよく把握し、その時々の楽壇の潮流を反映した作品を作り出したことは、例えばストラヴィンスキーやショスタコーヴィチの音楽の影響を濃厚に受けた交響曲第1番を耳にするだけでも明らかです。

さらに、1960年にニューヨークに長期滞在した際に米国の楽壇の音楽作りに触発され、「灰色の音楽を目指した」交響曲第3番などは、自信家であった團伊玖磨が「成功しなかった」と評価したものの、作品そのものの水準の高さは自らの芸術の確立に向けて不断に挑戦する創造力に富む姿を明瞭に描き出します。

これに加えて、團伊玖磨が世相にも敏感であったことは、番組の中で紹介された映画音楽『世界大戦争』(1961年)からも明らかです。

すなわち、私も著書『政治家 石橋湛山』(中央公論新社、2023年)で本作を取り上げ、「『第三次世界大戦はいつ起きても不思議ではない』という社会全体が抱いてい漠然とした不安」が『世界大戦争』の中に羽五されていることを指摘したように[1]、当時の世界は1962年のキューバ危機によって文字通り第三次世界大戦の開戦直前まで迫っていたものでした。

こうした時代の雰囲気が『世界大戦争』から取り上げられた「第三次世界大戦」「世界最後の日」「エンディング」の中に活き活きと映し出されており、特に『お正月』の巧みな引用は、物語の悲劇的な結末を一層際立たせるものです。

それだけに、今回の放送は著名ながら作品が紹介される割合の少ない團伊玖磨の芸術の奥行と幅の広さを示すとともに、その識見の高さをも聴取者に強く印象付けたと言えるでしょう。

[1]鈴村裕輔, 政治家 石橋湛山. 中央公論新社, 2023年, 254頁.

<Executive Summary>
The Featured Programme of the "Labyrinth of Classical Music" Emphasises the Important Meaning of Dan Ikuma and His Art (Yusuke Suzumura)

The NHK FM's programme "Labyrinth of Classical Music" featured Dan Ikuma to celebrate his 100th anniversary on 13th April 2024. On this occasion, this programme demostrates that the art of Dan Ikuma's importance and meaningfulness.

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