【新譜評】『伊福部昭の純音楽』(Salida、2020年)

2020年12月23日(水)、SalidaからCD『伊福部昭の純音楽』全3枚が発売されました。

『伊福部昭の純音楽』は、NHKの『現代日本の音楽』や『FMクラシックアワー』などのラジオ番組のために収録されたマスター音源や東京佼成吹奏楽団や北海道大学交響楽団の演奏の実況録音など7曲、さらに音楽評論家の片山杜秀氏による「作曲家 伊福部昭」を収録しています。

取り上げられているのは1935年の『日本狂詩曲』から1978年のヴァイオリン協奏曲第2番まで、1930年代から1970年代までの管弦楽曲や吹奏楽作品です。

当初は伊福部の作品を新たに録音する計画であったものの、2020年1月から新型コロナウイルス感染症の感染が拡大したために新規の録音が難しくなり、その代わりに各団体が保管する音源を活用することとなり、本作が誕生しました。

結果として、これまでラジオ番組で放送されたものの市販されなかった録音や、初演時の音源が広く世に送り出されることになったのは、『伊福部昭の純音楽』の大きな意義の一つ言えます。

また、各曲の内容については、演奏された当時の奏者の技量の水準や伊福部昭の作品に対する理解の度合いが発展の途上にあったこともあり、現在からみると時に物足りなさを覚える点があるかも知れません。

しかし、そのような点は本作の価値を損なうものではなく、むしろ伊福部昭の音楽がどのように演奏者に受け入れられて来たかを知るための重要な手掛かりとなります。

さらに、作られた時代も演奏された時期も異なる7つの曲を聞くことで、伊福部の音楽にしばしば与えられる「土俗的」といった表現が表層的であり、伊福部はあくまで自分の作りたい音楽に忠実であって、聞き手が立ち現れる音楽に便宜的に「土俗的」といった名前を与えていることが実感されることでしょう。

3枚目のCDでは片山杜秀氏が伊福部昭の作曲の方法の特徴や伊福部の生活での体験、あるいは収録作品の分析を通して、伊福部の音楽の全貌を検討しています。

片山氏の談話は「コロナ下」という状況に鑑み、Salida主宰者の出口寛泰氏が質問文を送り、その内容に対して片山氏が回答を寄せるという一種の往復書簡的な方法によって収録されています。

困難な環境の中でも新たな音源の調査やより円滑なやり取りによる談話の収録など、挑戦的で意欲的な試みがなされたことは、本CDの大きな特長です。

その意味で、『伊福部昭の純音楽』は、伊福部の音楽に親しんだ聞き手にも様々な魅力を提供し、初めて伊福部の作品に接する人にとってもよりよい手引きとなるCDであると言えるでしょう。

<Executive Summary>
CD Review: Works of Akira Ifukube (Yusuke Suzumura)

Three CDs entitled with Works of Akira Ifukube were released by Salida on 23rd December 2020. These CDs recorded Akira Ifukube's seven works.

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