北京オリンピックを巡るいくつかの問題が持つ重要な意味

明日、冬季オリンピック北京大会の開幕式が行われ、大会が本格的に始まります。

今回の大会は、中国国内の人権問題に抗議する形で米英など一部の国が開会式及び閉会式に政府高官を派遣しない「外交ボイコット」を行い、日本も衆議院が中国を念頭に置いた人権状況への懸念を決議するなど、従来の大会に比べてオリンピックと政治の関わりがより注目を集めています。

これは一面においてわれわれに「オリンピックと政治」あるいは「スポーツと政治」について考えさせる手掛かりを与えるとともに、他面においては国家副主席として2008年の夏季五輪北京大会の運営責任者を務め、今回は国家主席として開会を宣言する習近平氏の自らの権威を高めようとする思惑が「オリンピックの政治化」を問題として顕在化させていると言えるでしょう。

例えば、国際オリンピック委員会(IOC)は昨年の東京オリンピックから、表彰式や開会式などを例外として、選手に対し、入場や紹介の際、あるいは記者会見やSNSなどで個人の主張や信条を表明することを認め、今大会でも同様の措置を適用します。

しかし、北京大会における選手の表現の自由や言論の自由は無制約ではなく、IOCは主催国である中国の法規に従う必要があることを警告しています[1]。

また、大会組織委員会対外連絡部の楊舒副部長が「オリンピック精神に背く言動、とりわけ中国の法規に背く行為は何らかの処罰の対象になる」[2]と明言したことも、中国側の対応の厳しさを推察させます。

もとより、オリンピックは競技の場であって言論の場ではなく、競技者に求められるのは言論活動ではなく競技そのものにいそしむ態度であると考えることもできます。

従って、「中国の法規の範囲内での言論」という中国当局の方針にも一定の理解の余地はあるかも知れません。

それでも、当局者が許可される言論の範囲を設定し、現時点でIOCも選手の擁護ではなく中国側の意向を尊重するかのような態度を示すことは、北京大会での選手の表現や言論の自由があたかも名存実亡であるかのような印象を与えます。

その意味でも、今回の北京オリンピックにおいて、「オリンピックと政治」や「選手の言論・表現の自由」の問題がどのような推移を示すか、注目されます。

[1]IOC Says Olympic Athletes Will Be Safe and Free to Express Opinions in Beijing. TIME, 10th December 2021, https://time.com/6127384/olympics-china-freedom-speech/ (accessed on 3rd February 2022).

[2]How Much Freedom Of Speech Will Team USA Athletes Be Guaranteed At The Winter Games? Here’s What Organizers And Human Rights Groups Say. Forbes, 2nd February 2022, https://www.forbes.com/sites/lisakim/2022/02/02/how-much-freedom-of-speech-will-team-usa-athletes-be-guaranteed-at-the-winter-games-heres-what-organizers-and-human-rights-groups-say/?sh=2e094ae02849 (accessed on 3rd February 2022).

<Executive Summary>

Some Remarkable Issues of the Beijing Olympics Have an Important Meaning (Yusuke Suzumura)

The Beijing Olympics have some remarkable issues such as athletes' freedom of speech and expression and relationships between Olympics and politics. In this occasion we examine these issues as an important subject of our observation.

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