【追悼文】市川左團次さんについて思い出すいくつかのこと

去る4月15日、歌舞伎俳優の市川左團次さんが逝去しました。享年82歳でした。

左團次さんは長身の堂々とした立役として『助六』の髭の意休や『俊寛』の瀬尾などで活躍したほか、滑稽な役どころやテレビの時代劇などでも存在感を発揮したことは広く知られるところです。

特に歌舞伎座での公演には欠かすことのできない方で、毎月の公演に様々な役どころで出演したことは、それだけ芸の幅が広いことを物語っていました。

私も、歌舞伎座や国立劇場の公演を鑑賞するたびに左団次さんの、一目でそれと分かる演技を堪能したものでした。

いずれの公演も印象的ながら、とりわけ思い出深いのは2010年11月に国立劇場で上演された『国性爺合戦』です。

この時は、和藤内後に鄭成功を市川團十郎さん、錦祥女を坂田藤十郎さん、五常軍甘輝を中村梅玉さんが務める豪華な顔ぶれで、それだけでも見ごたえのある公演でした。

さらに、芸につやが出てきた中村東蔵の渚や口跡の美しい市川右之助の呉三桂といった脇役の充実も物語を引き締める中で、左團次さんの老一官は、登場するだけで舞台の密度が濃くなる演技で、和藤内の父という重要な役どころをさり気なく、それでいて力強く演じていました。

あるいは、滝沢秀明さんが主演したNHK大河ドラマ『義経』で金売り吉次を演じ、つかみどころがないように見えて物語に欠かすことのできない輪郭の濃い役どころを、さらに縁取りも鮮やかに演じて作品の奥行きを広げていたのも、名脇役の名にふさわしいものでした。

現在の歌舞伎界の隆興を支えた名優である市川左團次さんのご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Ichikawa Sadanji IV (Yusuke Suzumura)

Ichikawa Sadanji IV, a Kabuki actor, had passed away at the age of 82 on 15th April 2023. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Ichikawa Sadanji IV.

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