下野竜也さんのNHK交響楽団正指揮者就任に寄せて

本日、NHK交響楽団は下野竜也さんを正指揮者に迎えることを発表しました[1]。

今年7月に外山雄三さんが調整したことで尾高忠明さんのみとなっていた正指揮者だっただけに、どなたかが就任するか注目しておりました。

現在の70歳代以上の日本の指揮者で、NHK響とのかかわりが深いのは、尾高さんを除けば井上道義さんだけとなります。

ただ、井上さんは2024年に引退することを表明しているだけでなく、その経歴からすれば、60歳代での指名であれば納得感があるものの、功成し名を遂げた後での招聘はやや難しいところでした。

次に60歳代の指揮者を見ると、定期公演での共演に限っても楽団と近しい関係にある日本の指揮者が皆無と言ってよいだけに、この層からの起用も現実味に欠けるものです。

一方、40歳代以下の指揮者となると、正指揮者制度が導入された当初ならいざ知らず、岩城宏之さん、外山さん、そして森正と斯界を牽引してきた皆さんが指名されることで重みの増した称号に迎えるには、時期尚早の感が否めないものです。

もちろん、50歳代も定期公演への登場という高い障壁を超えた指揮者の数は多くないものの、2009年2月の第1642回以来、定期的に共演を重ねてきたことを考えれば、下野竜也さんが選ばれたことは、ある意味で得心が行きます。

それとともに、読売日本交響楽団や東京都交響楽団、ライン・ドイツ・オペラでの活躍の印象が強かった若杉弘さん、札幌交響楽団やBBCウェールズ交響楽団との関係が広く知られていた尾高さんを招いたように、広島交響楽団音楽総監督としてその存在感を高めている下野さんの起用は、興味深い人事でもあります。

それだけに、今後の下野竜也さんとNHK交響楽団がどのような軌跡を描くのか、その新たな歩みが期待されます。

[1]下野竜也氏 NHK交響楽団 正指揮者に就任|12月に伝統の「N響第9」を指揮. NHK交響楽団, https://www.nhkso.or.jp/news/20231005_1.html (2023年10月5日閲覧).

<Executive Summary>
Miscellaneous Impression of Professor Tatsuya Shimono's Appointment for the Permanent Conductor for the NHK Symphony Orchestra (Yusuke Suzumura)

The NHK Symphony Orchestra announces that they appoint Professor Tatsuya Shimono as the Permanent Conductor on 5th October 2023. On this occasion, we examine the meaning of this decision.

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