「指名代走」は「野球の魅力の向上」に寄与するか

去る8月21日(月)、日刊ゲンダイの2023年8月22日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第145回「「指名代走」は「野球の魅力の向上」に寄与するか」が掲載されました[1]。

今回は、今季独立リーグのアトランティック・リーグで導入された指名代走制度について、野球の魅力の向上という目的を達成するためにどのような貢献をなしうるかについて検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


「指名代走」は「野球の魅力の向上」に寄与するか
鈴村裕輔

一塁から三塁までの各ベースを3インチ(約7.6センチ)短縮させ、極端な守備を禁止する措置は、投手が球を受け取ってから投球動作に入るまでの時間を制限したクロックピッチとともに、今季から大リーグで導入された「時短政策」の中核をなす。

マイナーリーグのAAA級ではコンピュータがストライクとボールを判定する「ロボット審判」が今季から導入されており、コミッショナーのロブ・マンフレッドは大リーグでも2024年のシーズンから実施する計画を明らかにしている。

いずれも既存の野球のあり方を変える可能性を持つ施策ながら、「野球の魅力の向上」を掲げるマンフレッドと大リーグ機構は、新たな方策を推進する手を緩める気配はない。

今季から独立リーグのアトランティック・リーグで始まった指名代走制度も、こうした機構の方針を反映させたものだ。

先発以外の選手一人を指名代走とし、試合中に何度でも起用できるとともに、代走と交替した選手も再び試合に出場できる新制度は、一度試合から退いた選手は再び出場できないという球界の常識を覆すものである。

スピード感の向上が観客の集中力を維持し、選手たちに緊迫感をもたらすのが指名代走の目的となっている。

2019年に大リーグと提携して以来、アトランティック・リーグは新しい試みの実験の場として活用されてきた。ベースの拡大や守備位置の制限はこれまでアトランティック・リーグでの実験から始まり、大リーグで取り入れられることになった。

また、「ロボット審判」も2021年にアトランティック・リーグで試行されたのが最初となっている。

ただし、指名代走については、日本に先例がある。東京とメキシコの2大会連続で五輪日本代表となり、100メートル走などで出場した、飯島英雄(ロッテオリオンズ、現在の千葉ロッテマリーンズ)だ。

1969年から3年間オリオンズに在籍した飯島は、40回盗塁を試み、成功したのは23回で失敗は17回だった。

「五輪選手からプロ野球へ」「世界最初の指名代走」として注目された飯島ではあったものの、走者がゴールに向かって一斉に走り出す100メートル走と対戦相手の守備の隙間を突いて次の塁に進む野球とは勝手が違っていたのである。

もちろん、アトランティック・リーグの指名代走制度は、飯島のような野球経験のない選手を起用するのではなく、たとえ独立リーグではあっても野球への十分な知見を持つ選手が対象となる。

それでも、盗塁を成功させて当然という周囲からの期待を重圧と感じるか推進力にするかも含め、9月のシーズン終了時点での指名代走となった選手たちの成果が注目される。


[1]鈴村裕輔, 「指名代走」は「野球の魅力の向上」に寄与するか. 日刊ゲンダイ, 2023年8月22日号27面.

<Executive Summary>
Will the Designated Pinch Runners Contribute to Improve an Attractiveness of Baseball? (Yusuke Suzumura)

My article titled "Will the Designated Pinch Runners Contribute to Improve an Attractiveness of Baseball?" was run at The Nikkan Gendai on 21st August 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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