「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(3)

去る4月28日(火)から5月4日(月)まで、評論家の小林淳さんからのご指名で「7日間ブックカバーチャレンジ」に参加しました。

期間中、私は7日間で合計8冊を取り上げました。今回は、過去2回[1],[2]に続き、取り上げた本と寸評をご紹介します。

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(6)第6回目(2020年5月3日[日、祝])
「7日間ブックカバーチャレンジ」も第6日目を迎えました。

今回取り上げるのは、『渡邉恒雄回顧録』(監修・聞き手:御厨貴、聞き手:伊藤隆、飯尾潤、中央公論新社、2007年)です。

おそらく日本において史上屈指の著名な新聞記者の一人で、「ナベツネ」の愛称で知られる渡邉恒雄さんとの30時間に及ぶやり取りをまとめたのが本書です。

1945年6月29日に陸軍に召集され、カントの『実践理性批判』とウィリアム・ブレイクの詩集を背嚢の底に隠して入営した多感で紅顔の哲学青年が幾多の挫折と失敗を経ながら読売新聞社の主筆として筆政を司るとともに政界の中枢に深く食い込む様子を具体的な挿話の数々とともに描く本書は、さながら戦後の日本の政治の俯瞰図です。

それとともに、熱心な共産主義者が主体性論争を通して熱烈な自由主義者へと変貌する過程を渡邉さん自身の発言と当時の日記などを駆使して辿る様子は、日本の精神史の理解の上でも重要な手掛かりを提供します。

一方で、渡邉さんの盟友であった中曽根康弘氏が総理総裁の座を手にする様子を描く第7章以降に登場し、渡邉さんとの間で軋轢を生んだとされる後藤田正晴さんが、やはり御厨先生を中心とする政策研究大学大学院のオーラルヒストリープロジェクトが行った『情と理―後藤田正晴回顧録』(後藤田正晴、講談社、1998年)の中で渡邉さんの名前を一切出さないことは、両者の関係の機微を伝えます。

あるいは、渡邉さんを批判的に取り上げた『渡邉恒雄 メディアと権力』(魚住昭、講談社、2003年)や『巨怪伝』(佐野眞一、文藝春秋、2000年)などの成書と照らし合わせると、特に読売新聞社の政治部長から社長へと権力の階段を昇り詰める過程が美談調となっている点は、興味深いものです。

それでも、政治権力の主体ではないにもかかわらず政治のあり方に絶えず大小の影響を与えるという「特異な位置」(本書562頁)を占めてきた渡邉さんの素顔の一端をありありと描き出す『渡邉恒雄回顧録』は、オーラルヒストリーという試みの一つの頂点をなしており、今も学ぶところの多い一冊といえるでしょう。

(7)第7回目(2020年5月4日[月、祝])
「7日間ブックカバーチャレンジ」も最終日の第7日目となりました。

今回取り上げるのは、"Through a Blue Lens: The Brooklyn Dodger Photographs of Barney Stein 1937-1957" (Dennis D'Agostino and Bonnie Crosby, Triumph Books, 2007)です。

ドジャースが本拠地をブルックリンからロサンゼルスに移したのが1958年のことであり、エベッツ・フィールドの「最後の年」となった1957年から満50年が経ったことを記念し、ブルックリン時代のドジャースの様子を公式写真家であったバーニー・スタインさんの写真を基に編纂したのが本書です。

私が本書を手にした経緯は、思いがけないものでした。

すなわち、私にとって最初の単著書となった『MLBが付けた日本人選手の値段』(講談社、2005年)では、多くの球界関係者の皆さんのお話を伺いました。その中に、ドジャースの元所有者であったピーター・オマリーさんがいました。

「だめで元々」と取材の申し込みを行ったところ快諾してくれたオマリーさんは、私の質問に丁寧な回答を寄せて下さり、得られた意見は著書の中で大いに活用することが出来ました。

そして、無事に上梓された後、協力へのお礼として、『MLBが付けた日本人選手の値段』をお送りしました。

もとより、オマリーさんが日本語を解さないということは承知していたため、日本語のみの著書であることをお詫びする一文を添えてお送りしたところ、到着した旨を告げるオマリーさんからの電子メールには、「日本語は分からないが、日本語に堪能なスタッフに概要を聞いてみる」という趣旨の返事が書かれていました。

これだけでも大変にありがたいものであったところに、2007年4月にオマリーさんの名前で届けられたのが、"Through a Blue Lens"でした。

早速お返事をお送りしたところ、「あなたが著書を送ってくださったことへの返礼として受け取ってください」というお返事をいただきました。

実に細やかな配慮だと有り難く思いながら手にした本書は、貴重な写真や興味深い場面、そしてそれぞれの内容を適切に紹介する説明からなる、充実した仕上がりとなっていました。

オマリーさんには、2007年と2008年に私が刊行した2冊の本でも取材に応じていただけたことを含めて、"Through a Blue Lens: The Brooklyn Dodger Photographs of Barney Stein 1937-1957"はひときわ思い出深い一冊となっています。
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[1]鈴村裕輔, 「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(1). 2020年5月6日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/4c570115d05e0645f8e579943da0cec4?frame_id=435622 (2020年5月20日閲覧).
[1]鈴村裕輔, 「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(2). 2020年5月16日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/0f58792db6588b8a02bbab58b6ea284e?frame_id=435622 (2020年5月20日閲覧).

<Executive Summary>
The 7 Days "Book Cover Challenge" (3) (Yusuke Suzumura)

I participated with The 7 Days "Book Cover Challenge" on 28th April through 4th May 2020. On this occasion I introduce my selection to the readers of the weblog for three times.

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