「2021年の印象的な新刊書5冊」を振り返る

2021年に私が読んだ新刊書の中で、特に印象的な5冊は以下の通りでした(以下、発行順、敬称略)。

古田元夫『東南アジア史10講』(岩波書店)
諸隈元『人生ミスっても自殺しないで、旅』(晶文社)
植朗子『鬼滅夜話』(扶桑社)
伊東潤『夜叉の都』(文藝春秋)
岩井秀一郎『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社)

上記の5冊のうち、本欄で「書評」として紹介したものもあり、今後取り上げるものもありますが、寸評は以下の通りです。

古田元夫先生の『東南アジア史10講』(岩波書店)は、古代から現在へと至る東南アジアの歴史を辿ることで「列強の植民地支配の犠牲者」といった見方を超える、海洋貿易の中心地から内陸地の開発への推移や隣接する超大国中国の歴代王朝との関係を実証的に検討し、東南アジアへのよりよい知見を提供します。

諸隈元先生の『人生ミスっても自殺しないで、旅』(晶文社)は落語のような人間味溢れるやり取りと気を揉む出来事の連続の中に、ヴィトゲンシュタインの哲学と人となりを知るための格好の手掛かりが含まれており、生きることの意味が印象的に描かれた、素晴らしい旅行記的哲学書です。

植朗子先生の『鬼滅夜話』(扶桑社)はAERA dot.での連載を基としており、物語研究の手法によりつつ漫画『鬼滅の刃』の登場人物の特徴や意味の実証的な考察を通して作品の多層性を明らかにするとともに、『鬼滅の刃』が学問的な研究にも耐え得る作品であることを示す、重要な意味を持つ一冊です。

伊東潤先生の『夜叉の都』(文藝春秋)は、『修羅の都』(文藝春秋、2018年)の続編で、前作において源頼朝が多大な犠牲を払いつつ作り上げた「武士の府」としての鎌倉府を守るために北条政子がいかなる苦難を乗り越えたかを、最新の研究成果を織り込みつつ描き出す、読み応えのある重厚な小説です。

岩井秀一郎先生の『最後の参謀総長 梅津美治郎』(祥伝社)は、「最後の参謀総長」梅津美治郎を取り上げ、軍人の本分に忠実であったためにかえって二・二六事件やノモンハン事件の「後始末」を任された梅津の実像に迫っており、多田駿や渡辺錠太郎の評伝と同様、岩井先生の選択眼が光る一冊です。

もちろん、上掲の5冊だけにとどまらず、昨年も多くの良書、佳作を読むことが出来ました。

著者の先生方のご尽力に改めて感謝するとともに、2022年もさらに多くの作品に接することが出来ればと思うところです。

<Executive Summary>

My Best Five Books of 2021 (Yusuke Suzumura)

I selected my best five book of 2021. In this occasion I show the list of these books.

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