岸田文雄首相の「宏池会会長の辞職と派閥離脱」はいかなる意味を持つか

去る12月7日(木)、自民党の派閥である宏池会は、会長の岸田文雄首相が会長の辞任と派閥の離脱を行った旨を公表するとともに、岸田首相の在任中は会長職を空席にすることを明らかにしました[1]。

自民党の清和政策研究会、すなわち安倍派で明らかになった政治資金パーティーを巡る資金の不透明な流れが国民の信頼を損なっている事態を考えれば、今回の措置は派閥政治に対する世論の反発をなだめるための措置であることは明らかです。

特に、最初の著書である『岸田ビジョン』(講談社、2020年)において宏池会の一員であることに誰よりも強い愛着を示し、池田勇人以来の伝統を持つ派閥の長であることを誇ることをしばしば強調したように、岸田首相にとって宏池会は自らの政治家としてのあり方を規定する、重要な存在です。

実際、首相に就任した際には派閥の長を辞任し、あるいは派閥を離脱することが慣例となっている中で、現在までいずれも行ってこなかったことは、それだけ岸田首相にとって宏池会の持つ重みが大きいことを示します。

それだけに、岸田首相が文字通り断腸の思いで会長職の辞任と派閥の離脱を決めたことは明らかです。

確かに、例えば閣僚や党役員の人事を見れば、岸田首相が派閥単位で物事を考えており、派閥に基礎を置く政権運営という意味で派閥政治を行っていることは疑い得ないところです。

しかし、かつては総理総裁を目指すためには一派を率いることは必須の条件でしたし、たとえ配下の議員が求めるとしても自らの政治力を高めるためには古文を犠牲にしてでも閣僚や党の重役を繰り返し努めなければなりませんでした。

そこには、派閥が政権運営の基礎単位であるとともに、派閥において国会議員が研鑽を積み、成長するという一種の教育機関としての派閥の役割りがあった点は見逃せません。

その一方で、小選挙区制の導入により公認権を持つ党本部の役割が大きくなり、派閥の位置付けが変質する中で、かつての教育機関としての役割を失い、集金機能のみが温存されたことは、今回の一連の問題を考える上で重要な視点となります。

そして、岸田首相は、派閥が次世代の総理総裁候補を育成するための機関でもあった時代の名残りに郷愁を抱き続けたことで、かえって派閥を取り巻く状況の変化に自覚的に接する機会を失い、一派を率いる者が総理総裁となるという過去の形態に拘泥したということができます。

こうした事情は、われわれに二つの疑念を抱かせます。すなわち、今回の出来事が明らかにならなかった場合、岸田首相はいつまで派閥の会長の座に留まり、派閥の一員であったかという点と、今回に至るまで党の内外で様々な批判があったにせよその座に留まり続けた岸田首相を許し続けた自民党の内部での批判力の弱さは何故生じたかという点です。

第一の点については、今回の問題が明るみに出なければ岸田首相は在任中はおろか、退任後も宏池会の一員であり続け、会長職も相当の期間務めたであろうということが推察されます。

また、第二の点については、党内に有力な後継候補がおらず、また党内の批判があったとしても無視し得る程度の影響力しかもっていないということを考えれば、むしろ問題は岸田首相自身ではなく、そのような岸田首相のあり方を矯められなかった自民党そのものにあったと考えられます。

それだけに、問題は、最後まで岸田首相の派閥活動を傍観し続けたかのような自民党内部の脆弱さにあるのです。

世上、今回の問題で岸田首相の政権運営の一層の困難化を指摘する声があるとしても、それ以上に深刻なのは自民党のあり方で、こうしたところにも党内の権力構造が確実に変質したことが分かると言えるでしょう。

[1]岸田文雄首相が派閥離脱. 日本経済新聞, 2023年12月8日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is the Important Viewpoint for Us to Understand the Meaning of the Political Fund Issues?: Based on the Role and Its Changes of the Faction in the LDP (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida resignated the position of the Head of the Kochikai and renounced his membership for the Faction on 7th December 2023. On this occasion, we examine the meaning of this event based on the viewpoint of the history of politics in the LDP.

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