「分かりやすい構図」がもたらす「大谷ルール」への支持

去る3月28日(月)、日刊ゲンダイの2022年3月29日号25面に連載「メジャーリーグ通信」の第112回「「分かりやすい構図」がもたらす「大谷ルール」への支持」が掲載されました[1]。

今回は2022年のシーズンから導入された、投手を指名打者として起用した場合に限って降板後も打者として継続して試合に出られるという規則、通称「大谷ルール」について、大きな反対が起きない理由を「分かりやすさ」という側面から検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


「分かりやすい構図」がもたらす「大谷ルール」への支持
鈴村裕輔

ロシアによるウクライナへの侵攻は、短期間で決着するという見立てがあった一方で、1か月以上が経過した現在も、戦況は膠着している。

こうした状況の中で、ウクライナ大統領のウォロディミル・ゼレンスキーは米欧各国や日本の議会で演説し、国際社会の世論の支持を得ようとしている。

ポーランドやバルト三国など、ロシアに隣接する各国が一層の対ロ制裁を主張するのは、ウクライナが屈すれば自国が次の標的となる可能性が高まるという切迫した理由のためだ。

一方で、冷戦終結から30年以上が経ち、地理的にも心理的にもロシアとの距離が広まっている米国において、国民がロシアに対する経済制裁やウクライナを支持するのは、今回の両国の紛争を巡る構図が分かりやすいからと言える。

すなわち、大国ロシアが軍事力によって人口や国土、さらに経済規模でもより小さなウクライナに侵攻したこと、米国のバイデン政権が国際協調という公約を維持し、あらかじめ明示していた経済制裁を実施していること、普段は対立する米国の民主党と共和党が一致して行動していること、さらに連日のようにウクライナから届けられる戦地の映像が、米国民の世論をウクライナ支持で一致させたのである。

遠くの出来事はより明確で分かりやすく、直観的な情報によって判断が左右されるという点は、今回のウクライナ紛争に限らない。人々の日常生活の中にも見出されるし、スポーツも例外ではない。

大リーグ機構と大リーグ選手会が合意した、投手を指名打者(DH)として起用した場合に限り、降板後も打者として継続して出場できるという新しい規則はその典型だ。

現時点で年間を通して投手とDHを兼ねる可能性のある選手がエンゼルスの大谷翔平だけであることから、「大谷ルール」とも呼ばれる新規則は、今回の労使紛争で印象の悪化と観客数の低迷を危惧する機構が、話題作りのために導入したとも言われる。

確かに、コミッショナーのロブ・マンフレットは2017年頃から大谷の動静に言及することがあった。そのため、人気回復の一環として大谷の存在を積極的に活用しようと考えても不思議ではない。

しかし、どれほど機構が力を入れても、観客の支持を得られなければ新規則が期待通りの効果を発揮することはない。むしろ、「規則を変えれば大谷の活躍できる機会が増える」という構図の分かりやすさが、一部の専門家や記者たちの批判に対し、大多数の人々の支持という結果に繋がっているのである。

実際の成果は今季の終了を待たねばならない。それでも、少なくとも「大谷ルール」によって球界が開幕前に人々の注目を集めたことだけは間違いない。


[1]鈴村裕輔, 「分かりやすい構図」がもたらす「大谷ルール」への支持. 日刊ゲンダイ, 2022年3月29日号25面.

<Executive Summary>
A Reason Why the "Ohtani Rule" Is Accepted by the MLB (Yusuke Suzumura)

My article titled "A Reason Why the "Ohtani Rule" Is Accepted by the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 28th March 2022. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?