テキサス州知事の「ワクチン強制禁止」政策に悩まされる大リーグ

去る10月18日(月)、日刊ゲンダイの2021年10月19日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第102回「テキサス州知事の「ワクチン強制禁止」政策に悩まされる大リーグ」が掲載されました[1]。

今回は、今年10月にテキサス州のグレッグ・アボット知事が出した「ワクチン接種の義務化」を規制する知事令が大リーグに与える影響を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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テキサス州知事の「ワクチン強制禁止」政策に悩まされる大リーグ
鈴村裕輔

「ワクチンは安全かつ有効で、新型コロナウイルス感染症に対する最善の防御ではあるものの、接種は任意とすべきであり、決して強要してはならない」

テキサス州知事グレッグ・アボットが10月11日(月)に出した知事令は、「ワクチン接種の義務化」を新型コロナウイルス感染症の感染拡大を抑止するための重要な対策とするバイデン政権の方針と正面から対立する。

ジョー・バイデンが民主党であり、アボットが共和党に所属していること、さらに前大統領ドナルド・トランプ流の過激な言動で知られ、2024年の大統領選挙で共和党の有力候補の一人に挙げる声もあることを考えれば、両者の意見の相違は当然といえるだろう。

しかも、アボット自身が今年8月に新型コロナウイルス感染症に罹患したにもかかわらず「ワクチン接種義務化反対」の方針を掲げているのだから、「反ワクチン」を唱える共和党支持者向けの人気取り政策は相当に強い信念に基づいているということになる。

一面において民主党政権を揺さぶり、他面では共和党内での支持を固めようとするアボットの姿は、政治家同士の権力闘争で収まればよいものの、知事の一言が州内の企業や団体に与える影響は大きい。

例えば、米国の大手銀行は従業員にワクチン接種を受けるよう圧力を強め、小売り最大手ウォルマートは一部の従業員を対象にワクチン接種とマスクの着用を義務付けている。

こうした民間企業にとって、テキサス州の事業所ではワクチンの接種を強制できなくなることは大きな痛手となる。また、接種を強行すれば教職員へのワクチン接種義務付けを連邦高裁が一時的に差し止めたニューヨーク市のように混乱も生じかねない。

事情は大リーグも同じだ。

「コロナ対策」を徹底したにもかかわらず、シーズンを通して選手の新規感染の事例が絶えなかったことは、現時点で完全な対策の難しさを示す。

しかも、レンジャースとアストロズが本拠地を置くテキサス州で知事令の遵守を徹底すればどうなるか。大リーグ機構は選手にワクチン接種を指示するものの、両球団に所属する選手が接種を拒否した場合に知事令を根拠に接種を拒否する可能性がある。

ニューヨーク市の事例のように裁判所の介入を招くとすれば、大リーグ全体の「コロナ対策」が滞り、不徹底なものとなりかねない。

機構は現在も繰り返し選手個人や球団に対してワクチンの接種の指示を出しているし、マイナー・リーグの選手に対しては接種が強制されることになる。

それだけに、今後機構にとってはワクチン接種を基礎とする対策をどこまで徹底できるか、あるいはテキサス州に追随する州が現れないか、悩みは尽きない。
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[1]鈴村裕輔, テキサス州知事の「ワクチン強制禁止」政策に悩まされる大リーグ. 日刊ゲンダイ, 2021年10月19日号27面.

<Executive Summary>
Texas Governor Greg Abbott's Order Is Troublesome for the MLB (Yusuke Suzumura)

My article titled "Texas Governor Greg Abbott's Order Is Troublesome for the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 19th October 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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