トランプ前米国大統領による米国のNATOの防衛義務に関する発言はいかなる意味を持つか
現地時間の2月10日(土)、米国のドナルド・トランプ前大統領が北大西洋条約機構(NATO)について防衛義務を遵守しない可能性があることに言及しました[1]。
トランプ氏の発言はNATO加盟各国の反発と同氏が今年11月の大統領選挙で勝利した場合の米国の対外政策の変更を懸念させる一方、欧州側にとっては織り込み済みの内容でもあります[2]。
ところで、米国が「世界の警察官」ではないと明言したのは2013年9月10日のバラク・オバマ大統領でした[3]。
オバマ大統領の発言は、東西冷戦下では西側諸国の盟主として「世界の警察官」の役割を果たすことが米国の国家の利益となった時代が過去のものとなり、冷戦後に一時は「世界唯一の超大国」となった米国もその後の状況の変化により「世界の警察官」という役目が国家の利益よりも負担を大きくするという現実的な問題に直面した結果でした。
そして、2017年にトランプ氏が大統領に就任すると、米国軍が駐留している各国にさらなる諸経費の負担を求め、応じない場合は米国軍の撤退を示唆したものです。
結果的にトランプ氏の発言が実現することはなかったものの、オバマ氏が開いたと言える米国の国際的な紛争への積極的な介入の回避という路線は、形を変えながらもトランプ氏を経て現在のジョー・バイデン大統領に至っても否定されていません。
むしろ、19世紀以降、米国に根強く残るのが対外的な孤立主義であることを考えれば、トランプ氏のNATOへの防衛義務に関する発言は、表現の内容こそ問題があるとしても、米国の伝統的な外交政策を踏まえたものと言えます。
実際、オバマ政権以降の米国の対外政策に対して各国が危機感を抱いたからこそ、NATOの加盟国の3分の2が国防費を国内総生産(GDP)比2%以上に増やすという目標を達成する見込みとなっています[4]。
また、防衛費をGDP比1%以下に抑えてきた日本においても、岸田文雄首相が2027年度までに同比2%程度まで上昇させることを明言した背景は、こうした米国の姿勢に求められます。
その意味で、トランプ氏の発言は一見すると突飛で滑稽であり、米国らしくないははずべきもの[5]であるかもしれないものの、決して異色のものではありません。
それだけに、われわれに求められるのは、過激で誇張されたトランプ氏の発言そのものではなく、その発言を生み出す構造への十分な注意ということになるでしょう。
[1]Trump said he might ignore NATO’s duty to defend. Here’s what the group does. The Washington Post, 11th February 2024, https://www.washingtonpost.com/national-security/2024/02/11/what-is-nato-trump-alliance/ (accessed on 14th February 2024).
[2]Trump’s NATO jibe won’t be a surprise for Europe — but it could spell a reckoning. NBC NEWS, 12th February 2024, https://www.nbcnews.com/news/world/trumps-nato-europe-russia-threat-rcna138344 (accessed on 14th February 2024).
[3]Remarks by the President in Address to the Nation on Syria. The White House, 10th September 2013, https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2013/09/10/remarks-president-address-nation-syria (accessed on 14th February 2024).
[4]国防費GDP2%目標「加盟国2/3達成へ」. 日本経済新聞, 2024年2月14日夕刊3面.
[5]トランプ氏発言「間抜け」. 日本経済新聞, 2024年2月14日夕刊3面.
<Executive Summary>
What Ia the Meaning of Former US President Donald Trump's Comment for NATO? (Yusuke Suzumura)
Forme US President Donald Trump said that he would ignore NATO's duty to defend on 10th February 2024. On this occasion, we examine a structure and meaning of his comment.
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