大リーグを悩ませる学生ローン問題

去る7月24日(月)、日刊ゲンダイの2023年7月25日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第143回「大リーグを悩ませる学生ローン問題」が掲載されました[1]。


今回は、米国の連邦最高裁判所が学生ローンの返済を一部免除するバイデン政権の政策を違憲と判断したことが大リーグに与える影響について検討しました。


本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


****************
大リーグを悩ませる学生ローン問題
鈴村裕輔



「中間層の復活」はオバマ政権時代に主張され、現大統領のバイデンも政権の根幹に据えている政策だ。


バイデン政権が学生ローンの返済の一部免除を重要な政策としたことは、やがて次世代の中間層となるはずの大学生を経済的な負担から解放するためだった。


しかし、6月30日に連邦最高裁判所がバイデン政権の政策を憲法違反としたことは、米国民に衝撃を与えた。何より、約4300万人とされる対象者にとどまらず、返済免除を公約に掲げてきたバイデンの大統領再選のための戦略にも影響するのは必至である。


確かに、連邦最高裁の判断にも一理ある。


バイデン政権の学生ローン返済の一部免除は、大学に進学しなかったために学生ローンを借りなかった者や自力で学費を工面した者、さらにはすでに完済している者に不公平な政策である。こうした政策については議会の賛同を得るのが適切なのに、政権が一方的に大規模な返済免除を行うのは権限の逸脱と批判されても仕方のないものだった。


だが、4年制大学卒業者のローン残高は、公立大学卒業生の場合で一人当たり平均3万7千ドル、私立大学出身者では5万5千ドルに達する。


そのため、大卒者が将来への展望を持てなかったり、金銭的な負担から結婚をためらったり、さらには親元を離れず経済的な自立が遅れるといった、従来の米国人の常識とは異なる現象が起きている。


このとき、将来への不安から支出の選別が進められ、野球観戦を含む娯楽費や交際費が削減されるのは、生活防衛のための当然の対応となる。


さらに、高額の奨学金を得られる大学のスポーツ奨学金も、全額を受給する選手の約8割が、連邦政府が定める貧困層出身者とされる。そして、少しでも良い奨学金を得ようと、有望な高校生がアメリカンフットボールやバスケットボールを選ぶ一方で、奨学金が見劣りする水泳などの種目では、全米ジュニアオリンピック代表選手でも競技の継続を断念することは珍しくない。


現在、米国の大学スポーツ界において、野球は人材獲得の面でアメリカンフットボールとバスケットボールに後れを取っている。今後は学生ローン問題から、さらなる先細りが懸念される。


しかも、ドラフトを経て契約しても大リーグに昇格するまで少なくとも2年はかかるという現在の大リーグのあり方は、報酬の面だけに限れば下位で指名される大学生にとって魅力に乏しい。


若者が球場に足を運ばず、選手の層をも薄くしかねない学生ローン問題は、バイデンはもとより、球界にとっても悩ましい問題なのである。
****************


[1]鈴村裕輔, 大リーグを悩ませる学生ローン問題. 日刊ゲンダイ, 2023年7月25日号27面.


<Executive Summary>
The Student Loan Debt Problem Is a Severe Issue for the MLB (Yusuke Suzumura)


My article titled "The Student Loan Debt Problem Is a Severe Issue for the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 24th July 2023. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?