「新型コロナウイルス問題」に対して東京オリ・パラ組織委員会はどう対処すべきか

現在、東京オリンピック及びパラリンピックの開催を巡り、積極的な意見と消極的な見解とが交錯しています。

その様な中で存在感を発揮できないでいるのが大会組織委員会です。

大会組織委員会がどのような取り組みを行うべきかについては、『体育科教育』の連載「スポーツの今を知るために」の中で検討しています[1]。

2020年4月の時点での記事ながら、現在の状況にも通じる内容となっているように思われるため、内容の一部を修正して以下にご紹介いたします。

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「新型コロナウイルス問題」に対して東京オリ・パラ組織委員会はどう対処すべきか
鈴村裕輔

昨年1月に明らかになった、中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎は、現在も世界各地で感染の拡大が続いています。

中国の報道機関によれば、2020年1月29日(木)の15時時点における中国国内の感染者数は累計で6016人となり、2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の中国での感染者数5327人を上回ったことは周知の通りです。

一方、潜伏期間が長く、感染力が強いにもかかわらず致死率が低ければ、今後、新型肺炎の感染者が世界中に広がることも推測されます。

日本国内でも武漢市への渡航歴や外国人との接触が確認されない人が新型コロナウイルスに感染した事例が複数確認されていることは、事態の早期の収束の困難さを予想させるものです。

さらに、感染の経路も特定されていない現状では、感染者を隔離することは二次感染の可能性を低めはするものの、感染の拡大を完全に抑止することには繋がりません。

実際、米国のジョンズ・ホプキンズ大学システム科学工学センターが公開した、新型肺炎の感染が確認された場所と症例数を即時的に表示する地図などは、状況の深刻さが増していることをわれわれに教えます。

SARSの場合では、世界保健機関(WHO)が2003年3月12日に世界的な警報を発してから7月5日に終息を宣言するまで約4か月を要しました。

もちろん、全容が不明な段階で過剰な反応を示すことは慎まれなければなりません。

しかし、事態を楽観的に見通し、「冬場が終わればすぐに収まる」などと考えることは、各国が連携して封じ込め対策を行うためには、大きな制約となります。

ところで、新型コロナウイルス問題とスポーツ界が無関係でないことは、米女子プロゴルフ協会(LPGA)が2020年2月にタイとシンガポールで開催される公式戦を中止したことからも明らかです。

感染経路を含む詳細な情報が不足する中で大会を開催することで選手が罹患したり、擬陽性の症状を呈することで選手や観客が現地政府によって隔離されることがあれば、訴訟問題になりかねません。

あるいは、地域によっては米国内と同程度の水準の医療を受けられない可能性があるとすれば、LPGAの措置にも一定の合理性が認められます。

これに加えて、2016年のリオデジャネイロ大会ではジカ熱が、2018年の平昌大会ではノロウイルスの集団感染が発生したことが示すように、特定の場所に多くの人が密集するオリンピックが感染症の被害の拡大をもたらすことは容易に推察されます。

感染の拡大が長期化したSARSの場合のように、新型コロナウイルス問題も終息までの時間が長引けば、日本がWHOによって流行地域に指定されることもあり得ます。

ただし、大会組織委員会も指摘するように、感染症を理由として大会を中止したり延期する規定はありません。また、大会関係者の中には中止や延期はないと明言する者もいます。

こうした態度は、組織委員会の不退転の決意でも、疫学的な根拠に基づいた見解でもなく、「2020年7月には収まっているだろう」という希望的な観測による期待の表れと言うべきです。

危機管理の要諦が最悪の事態を想定して事柄の対処するのだとすれば、一部の関係者の発言は楽観的に過ぎます。

われわれにとって必要なのは、自らなしうる防疫の措置を励行することであり、事態をいたずらに軽視したり、あるいは過剰に反応することではありません。

WHOや各国の当局者には、予断を排して可能な限り速やかな対応策を策定することが求められます。

そして、東京オリンピックとパラリンピックの大会組織委員会や当局の関係者には、希望ではなく現実を直視し、あらゆる可能性を考慮した対策の実施が不可欠なのです。
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[1]鈴村裕輔, 「新型コロナウイルス問題」に対して東京オリ・パラ組織委員会はどう対処すべきか. 体育科教育, 第68巻第4号, 2020年, 61頁.

<Executive Summary>
What Is an Important Measure for the Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic against the COVID-19? (Yusuke Suzumura)

My past article entitled with "What Is an Important Measure for the Tokyo Organising Committee of the Olympic and Paralympic against the COVID-19?" was available on The Taiikuka Kyoiku published in April 2020 examined a measures of the Committee against the COVID-19. In this occasion I introduce the article to the readers of the weblog.

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