「鉄道開業150年」の記念の日によせて

今日は、旧暦の明治5年9月12日、すなわち1872年10月14日に新橋停車場と横浜停車場において鉄道の開業式が行われてから150年目を迎えました。

開業当初、新橋と横浜の約29kmを所要時間53分で移動し、1日9往復が運行された鉄道は、最短で23分で移動できる現在からみれば、発展の途上にあったことが分かります。

一方、江戸時代の旅人は1日に10里(約40km)歩くのが一般的で、東海道の場合は早朝に日本橋を出発して保土ヶ谷宿か戸塚宿で宿泊するのが典型的な旅程でした。従って、鉄道の登場は、1日かかる行程を1時間で移動することを可能にしたことになります[1]。

また、1874(明治7)年に大阪と神戸の間で鉄道が開通して以降、全国で順次鉄道網が整備されたことは、日本におけるヒトとモノの移動の長距離化と高速化をもたらしたのは、広く知られるところです。

ここで注意すべきは、当初は黒煙を吐きながら進む鉄の塊である汽車に対する恐怖心や否定的な考えがあったものの、社会全体としては鉄道を不祥な淫巧と見做す風潮は少数派であったという点です。

例えば、明治4年9月21日に、すでに敷設されていた品川・川崎間の路線を汽車で移動した大久保利通が「愉快ニ堪ス」と日記に書き留めたこと[2]などは、少なくとも当時の指導者の間では西洋の文物を導入するだけでなく、それらがもたらす効用を積極的に享受しようとする雰囲気が支配的であったことを示します。

こうした態度は、一面で鹿鳴館に象徴される極端な欧化政策に繋がったものの、他面では技術だけでなく制度や文化などまで様々な西洋の要素を網羅的に摂取し、土着化させようとする態度をもたらし、結果的に急速と称すべき日本の近代化を実現する一因となりました。

その意味で、「鉄道150年」は単に移動手段の近代化に留まらず、鉄道を導入し、普及させることを肯定した明治時代の人々の心性をよりよく理解するための重要な手掛かりを提供すると言えるのです。

[1]史料解説~鉄道開業と人々のくらし. 東京都公文書館, 公開日未詳, https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/01soumu/archives/0703kaidoku12_2.htm (2022年10月14日閲覧).
[2]瀧井一博, 大久保利通. 新潮社, 2022年, 234頁.

<Executive Summary>
Celebrating 150th Anniversary of Railways in Japan (Yusuke Suzumura)

The 14th October, 2022 is the 150th Anniversary of the launch of the Japan's first railway. On this occasion, we examine a meaning of Japan's policy to introduce new technology, system, and culture from overseas countries.

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