日本国際文化学会第22回全国大会における実行委員長挨拶

去る7月8日(土)、9日(日)に名城大学ナゴヤドーム前キャンパスで開催された日本国際文化学会第22回全国大会では、実行委員長としての私の挨拶が要旨集に掲載されました[1]。

そこで、今回、挨拶文を以下にご案内します。


大会実行委員会挨拶
日本国際文化学会第22回全国大会
実行委員長 鈴村裕輔(名城大学)

日本国際文化学会第22回全国大会にご参加いただき、ありがとうございます。

本学会の全国大会が中部地方で開催されるのは、今回が初めてとなります。こうした機会を得られることは名城大学の名誉とするところであり、学会の皆さまのご支援に御礼申し上げます。

オンライン開催となった第20回全国大会、3年ぶりの対面開催が実現した第21回全国大会と、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という状況の中でも、学会の活動の根幹である全国大会は、着実のその歩みを進めてきました。

そして、今回は、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が現行の二類感染症から五類感染症に移行し、「コロナとの共生」の新たな日々が始まりました。

もちろん、「二類から五類へ」は制度上の措置であり、こうした移行によって新型コロナウイルス感染症がたちどころに姿を消すわけではありません。また、人々の日常生活のあり方を一変させたといっても過言ではない新型コロナウイルス感染症に伴う種々の制約が緩和される中での全国大会も、「コロナ前」と同様の戻ることは難しいかも知れません。

それでも、過去3年間にわたり学会が蓄積し、各全国大会の実行委員会の皆さんが実践してきた感染症対策を参照しつつ、参加者の皆様にとってより快適で充実した全国大会となるよう、実行委員一同、終了の瞬間まで最善を尽くしてまいります。

さて、今回の全国大会のテーマは「世界の中の日本と日本の中の世界」です。

「世界の中の日本」もしくは「日本の中の世界」という表現は、一見すると古色蒼然としたものかもしれません。

また、かつては“Japan as Number One”といささか屈折した内容を伴いながらも国際社会における経済的な存在感の高さを評価されたものの、1990年代初頭のいわゆるバブル経済の崩壊後は「失われた10年」が「失われた40年」になろうとする中で、日本の経済成長は力強さを欠いています。

さらに、人口の減少に伴う労働力の不足や、移民の受け入れの是非、あるいは社会における多様性の実現といった問題は、遠い将来の出来事ではなく、現在のわれわれを取り巻く切実な課題です。

こうした中で、あえて古典的ともいえるテーマを設定したのは、上記のような日本の行く末を左右するような大きな問題だけではなく、より身近な事柄から出発し、今まさに起きている様々な出来事まで視野に入れた、多様な話題を参加者の皆さんとともに考え、よりよい回答を見つけるための第一歩を踏み出すための機会にしたいと願うからです。

例えば、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、これまで密接に結びつけてきた世界各地の関係を分断し、時には根拠のない憎悪や対立を招いたことや、ロシアによるウクライナ侵攻が既存の国際秩序に動揺をもたらし国際社会における日本のあり方に再考を促していることもわれわれが日々実感するところです。また、例えば留学生の派遣や受け入れといった現在の日本の大学にとって重要な問題も、こうした巨視的な日本と世界とのあり方と無関係ではありません。

今回の全国大会は、伝統的な話題から出発し、われわれの身近な課題へと立ち戻り、そして新たな解決策を模索することを目指すものとなります。

その象徴となるのが、田中優子先生(法政大学)とタイモン・スクリーチ先生(国際日本文化センター)を基調講演者として行われるシンポジウム「世界の中の日本と日本の中の世界」です。着物の素材である布に着目し、江戸時代における日本と世界とのかかわりを検討するのは田中先生の基調講演「布のちから」です。また、スクリーチ先生の基調講演「江戸時代における日本の250年間の海外交流史」は、江戸時代の日本が諸外国といかにして交流したかを実証的に検討します。

いずれも、江戸時代という、ある意味で評価が定まったように思われる時代について、その内奥に迫り、われわれが見逃しがちな様々な側面が示されることでしょう。

また、フォーラム「コロナ禍における国際文化学教育」は、3年に及んだコロナ禍が各大学の国際文化学教育にどのような影響を与え、各校がいかなる方策によって事態の打開を試みたのか、あるいはいかなる成果が残されたかが紹介されます。

このように、今回の全国大会もこれまでの大会に劣らず、新たな視点を提供することができるものと確信しております。

最後に、設置以来数次にわたる打ち合わせを通してよりよい全国大会を実現するために尽力された実行委員会の齋藤絢先生(副委員長、名古屋外国語大学)、趙貴花先生(名古屋商科大学)、植朗子先生(神戸大学)の取り組みに深謝いたします。

皆様、どうぞ全国大会の2日間をお楽しみください。


[1]鈴村裕輔, 大会実行委員会挨拶. 日本国際文化学会第22回全国大会要旨集, 2023年, 1-2頁.

<Executive Summary>
Chairperson's Address for the Japan Society for Intercutlrual Studies 22nd Annual Conference (Yusuke Suzumura)

The Japan Society for Intercultural Studies held the 22nd Annual Conference on 8th and 9th July 2023. On this occasion I introduce my address as the Chairperson of the Conference to the readers of this weblog.

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