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NHK交響楽団第2013回定期公演

去る6月8日(土)、9日(日)にNHKホールにおいてNHK交響楽団の第2013回定期公演が行われ、昨日第1日目の実況録音がNHK FMで放送されました。

今回は全てスクリャービンの作品が取り上げられ、前半に夢想とピアノ協奏曲、後半に交響曲第2番が演奏されました。ピアノ独奏は反田恭平、指揮は原田慶太楼でした。

2021年にショパン国際ピアノコンクールで第2位となり、その後の1か月間で40を超えるテレビ、ラジオ、新聞、インターネットなど出演し、あるいは取材を受けたことで一般的な知名度を高め、その公演が高い人気を博しているのが反田恭平です。

現在はピアノ奏者だけでなくジャパン・ナショナル・オーケストラの指揮者としての活動も大きな注目を博しており、文字通り今日の音楽界を牽引する演奏家の一人です。

その反田がスクリャービンのピアノ協奏曲で独奏者を務めたことは、興味深いものでした。

もちろん、音楽史の上ではショパンの影響を強く受けたのがスクリャービンであり、両者の結び付きは深いものです。

しかし、一見するとショパンだけでなく、チャイコフスキーやブラームスなどに比べてもその作品が人口に膾炙していないのがスクリャービンです。

そのようなスクリャービンをあえて取り上げたところに、様々な作品に対応できる幅の広さを示そうという意欲の高さと、演奏するならこの曲だろうという周囲の固定的な理解を乗り越えようとする反田の挑戦心とが推察されました。

実際、反田は持ち味の一つである繊細な打鍵とペダルの効果的な活用によって、高い抒情性と技巧性とが求められる難曲を時に表情豊かに、時に峻厳に演奏しました。

例えば第1楽章の終え方はショパンの影響を大きく受けたスクリャービンの音楽作りを率直に表現しており、まろやかな旋律が連なる第2楽章の悠然とした指の運びは、今後反田がスクリャービンのよい弾き手となることを予想させるものでした。

一方、原田は独奏者を際立たせることで作品の輪郭をより明瞭に描き出す演奏を目指し、その見積もりを成功させました。

とりわけ第2楽章の躍動感と第5楽章の深淵さとは、第3楽章を中心として対比的な性格を持つ2つずつの楽章の塊という作品の特長を的確に踏まえたもので、原田の理解の正確さを示していました。

後により進歩的な作風へと移行したことで平凡な作品ともみなされかねない交響曲第2番ながら、多様な理解の可能性を秘めていることを実際の演奏によって訴えたことは、説得力のあるものであったと言えるでしょう。

第1曲目の夢想も、クラリネットやファゴットの特徴的な旋律を際立たせつつ全体の金星にも絶えず注意を払っているところに、モスクワ交響楽団で指揮者としての演奏活動を初めて原田の履歴の一端が垣間見られました。

これまでも定期公演ではピアノ協奏曲や交響曲第2番だけでなく、法悦の詩や交響曲第3番も取り上げられているものの、スクリャービンの作品のみで一つの定期公演が行われるのは初めてのことです。

こうした点にも、意欲的な選曲で知られる原田の妙味が表れていた、NHK響にとっても今後に繋がる公演になったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
The NHK Symphony Orchestra the 2013rd Subscription Concert (Yusuke Suzumura)

The NHK Symphony Orchestra held the 2013rd Subscription Concert at the NHK Hall on 8th and 9th June 2024 and was broadcast via NHK FM on 13th June 2024. In this time, they performed Scriabin's Reverie, Piano Concerto, and 2nd Symphony. Solo piano was Kyohei Sorita and conductor was Keitaro Harada.


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