『クラシックの迷宮』の特集「「人間をかえせ」と「原爆小景」」が教える「原爆投下と音楽の関係」

今日のNHK FMの『クラシックの迷宮』では、8月6日の広島市と8月9日の長崎市への原子爆弾の投下の日を目前に控え、「「人間をかえせ」と「原爆小景」」と題して、人類史上未曽有の惨事である原爆の被害と音楽の関わりが検討されました。

今回の放送で取り上げられたのは以下の各曲でした。

(1)大木正夫/交響曲第5番「ヒロシマ」から第8楽章「哀歌(悲歌)」
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団、指揮:湯浅卓雄

(2)峠三吉(作詞)、大木正夫(作曲)/カンター『人間をかえせI』から第2章「仮繃帯所にて」
ソプラノ:滝沢三重子、アルト:成田絵智子、テノール:天野秋雄、バス:田島好一、合唱:東京労音会員、管弦楽:東京交響楽団、指揮:佐藤菊夫

(3)峠三吉(作詞)、大木正夫(作曲)/カンタータ『人間をかえせI』から第5章「呼びかけ」~終曲「人間をかえせ」
ソプラノ:滝沢三重子、アルト:成田絵智子、テノール:天野秋雄、バス:田島好一、合唱:東京労音会員、管弦楽:東京交響楽団、指揮:佐藤菊夫

(4)峠三吉(作詞)、大木正夫(作曲)/カンタータ『人間をかえせII』から第3楽章「朝」
合唱:東京労音会員、管弦楽:東京交響楽団、指揮:上田仁

(5)峠三吉(作詞)、大木正夫(作曲)/カンタータ『人間をかえせII』から第4楽章「足音」
バリトン:小田清、合唱:東京労音会員、厚生年金児童合唱団、管弦楽:東京交響楽団、指揮:上田仁

(5)原民喜(作詞)、林光(作曲)/『原爆小景』から第1曲「水ヲ下サイ」
合唱:東京混声合唱団、指揮:田中信昭

(6)林光/『火の夜-宗左近「炎える母」による-』
合唱:大阪放送合唱団、指揮:山田一雄
作曲: 林光

(7)原民喜(作詞)、林光(作曲)/『原爆小景』から「永遠のみどり」
合唱:東京混声合唱団、指揮:寺嶋陸也

聞き手に対して強い感情の移入を求め、一瞬にして多数の無辜の命を奪い去る原子爆弾の残虐さを音楽によって表現する大木正夫と、あくまで冷静な態度で作品に耳を傾けることを願った林光の音楽の対比は、斯界の片山杜秀先生ならではの視点です。

また、峠三吉や原民喜が自らの被爆体験を詩として書き残したことについて、片山先生が被爆そのものは一人ひとりの個人の経験ではあっても、詩の形で公表することで普遍性を持つことを指摘するのも、個人的な体験の意味を考える上で重要です。

「やや広島に寄りながら」と断りがあったように、今回の特集は広島市への原爆の投下を題材とする作品が揃いました。それだけに、来年以降はシュニトケのオラトリオ『長崎』のように、外国の作曲家の作品も含めて広島市と長崎市への原爆の投下と音楽の関わりをより一層追求する特集が継続的に組まれることが期待されます。

その意味で、本日の放送はそうしたさらなる展開への第一歩を印したと言えるでしょう。

<Executive Summary>
The "Labyrinth of Classical Music" Shows Relationships between Atomic Bombings and Orchestral Music (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured "Ningen wo Kaese and Genbaku Shokei" on 5th August 2023. It might be a meaningful opportunity for us to understand relationships between atomic bombings and orchestral music.

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