「安倍派の集団主導体制への移行」が示す安倍晋三元首相の組織統治の特徴

去る7月21日(木)、自民党安倍派が総会を開き、7月8日(金)に逝去した安倍晋三元首相の後継者は置かず、9月27日(火)の国葬まで会長代理である塩谷立氏と下村博文氏を中心とする集団指導体制により派を運営するとともに、名称も維持することを決めました[1]。

派内に一派を率いるだけの知名度や集金力を備えた人物をにわかに見出すのが難しいこと、あるいは安倍元首相の不慮の死に対して国民各層からの同情が寄せられている現状からしても、国葬という段落まで現在の体制を維持することは当然の対応と言えるでしょう。

ところで、状況が異なるとはいえ、安倍元首相が逝去後の安倍派と同様に「領袖不在の派閥」で思い出されるのはロッキード事件後の田中派です。

すなわち、1976年にロッキード事件で逮捕された田中角栄元首相は自民党を離党します。

その後も田中元首相は裏面から田中派を掌握するとともに、派閥所属議員たちも「一致団結箱弁当」と称される高い結束力を誇りました。

しかし、他派の総理総裁候補ばかりを支援していたこと自派の先行きへの疑念が生じたことが遠心力を生み、最終的に竹下登氏による創政会結成に至ったのは周知の通りです。

安倍元首相亡き後の安倍派についても、当面は集団指導体制で派を運営し、党総裁である岸田文雄首相も暫定的な体制への理解を示しています[2]。

従って、9月上旬にも予定される内閣改造と党役員人事では一定の配慮がなされるであろうものの、その後の各種人事で同派への割当枠の減少や総裁候補の不在が生じるだけでなく、状況が解消されないようであれば、田中派の故事のように、次第に遠心力が働くことになりかねません。

首相として「ポスト安倍」を積極的に育成せず有力者を競わせたことが長期政権に繋がる一方で不意の退陣が後継者に人を得ず短期政権を生んだように、派閥の実質的な長であったときから目ぼしい次の領袖が不在の状況を作り「安倍一強」体制を作ったことが、今回の集団指導体制をもたらしたと言えるでしょう。

その意味で、安倍晋三元首相は組織そのものの持続的で安定した運営と引き換えに、その存在感を強くしたのかも知れません。

[1]安倍派 暫定体制決定. 読売新聞, 2022年7月22日朝刊4面.
[2]安倍派体制維持首相に方針説明. 読売新聞, 2022年7月23日朝刊4面.

<Executive Summary>
Applying the Collective Leadership System of the Abe Faction Demonstrates an Advantage and a Weakness of Former Prime Minister Shinzo Abe (Yusuke Suzumura)

On 21st July 2022, The Abe Faction of the Liberal Democratic Party decides to apply the collective leadership system after the death of Former Prime Minister Shinzo Abe. In this occasion we examine a meaning of this shift based on a viewpoint of Mr. Abe's management style.

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