『クラシックの迷宮』の特集「日本沈没とノストラダムス」が描き出す社会と音楽の結びつき

本日放送されたNHK FMの番組『クラシックの迷宮』は、映画『日本沈没』が1973年12月に封切られてから今年で50周年目になることを記念し、「日本沈没とノストラダムス」と題して映画『日本沈没』と翌年制作された映画『ノストラダムスの大予言』を中心に、1973年前後の日本の音楽作品が取り上げられました。

取り上げられたのは麻丘めぐみの『わたしの彼は左きき』に始まり、映画『日本沈没』や映画『ノストラダムスの大予言』の附随音楽、リゲティの歌劇『グラン・マカブル』、柴田南雄の交響曲『ゆく河の流れは絶えずして』、團伊玖磨の歌劇『ひかりごけ』、そして1974年放送のテレビ版『日本沈没』の主題歌で五木ひろしの歌唱する『明日の愛』など、いつもながらに多岐にわたります。

映画『日本沈没』は原作者の小松左京が当時の最新の科学的知識に基づき、ありうべき未来の姿として日本列島を襲う未曽有の事態を描き出しており、映画『ノストラダムスの大予言』に色濃く表れている怪奇的な要素は乏しいものです。

しかし、両者に共通するのは公害問題や1973年10月の第四次中東戦争に始まる石油危機と経済成長の停滞、あるいは食糧問題など、不安と不安定さを増していた当時の社会の様子を反映している点です。

特に、『日本沈没』の原作で描かれる小野寺俊夫の自宅に侵入した若者たちや映画『ノストラダムスの大予言』における若者たちの姿は、そうした退廃する人心のあり様を象徴的に描き出すものでした。

このように考えれば、1975年から1977年にかけて作曲された、彗星の衝突と世界の破滅に直面した人々の姿を描く『グラン・マカブル』や、極寒の北海という極限の状況に置かれた者たちが主題となる『ひかりごけ』(1972年)、人の世の無常さを鴨長明の『方丈記』に基づいて音楽によって表現した交響曲『ゆく河の流れは絶えずして』(1975年)などは、いずれも同じ時代の雰囲気を共有しているということになります。

そこに、当時の最先端の若者文化であったアイドルの存在を『わたしの彼は左きき』(1973年)やフィンガー5の『個人授業』(1973年)によって重ね合わせることは、一方で明るく朗らかな日常生活と、他方で悲観的で厭世的なまなざしの交差をありありと描き出すものでした。

その意味で、今回の放送は1973年という年を通して社会と音楽の結びつきを描き出す、司会の片山杜秀先生ならではの視点に基づいた、この番組らしい特集であったと言えるでしょう。

<Executive Summary>
"Labyrinth of Classical Music" Demonstrates Deep Relationships between Society and Music (Yusuke Suzumura)

A radio programme entitled "Labyrinth of Classical Music" (in Japanese Classic no Meikyu) broadcasted via NHK FM featured the year of 1973 with movies and songs such as "Japan Sinks" (1973) and "Prophecies of Nostradamus" (1974) on 14th October 2023. It might be a meaningful opportunity for us to understand deep and close relationships between society and music.

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