石破茂首相の所信表明演説はいかなる意味を持つか

昨日、衆参両院の本会議において石破茂首相が所信表明演説を行いました[1]。

演説において最初に岸田文雄前首相の功績を讃えつつ、自民党の政治資金問題を受けて自由民主党という組織の長としての責任を取って退陣したという理解を示し、「岸田内閣の三年間は、経済、エネルギー政策、こども政策、安全保障政策、そして外交政策など、幅広い分野において、具体的な成果が形になった三年でありました。岸田総理の御尽力に、心より敬意を表します。」[1]としました。

「その思いや実績を基に」[1]種々の政策を進めるとしたことは、自らの内閣を岸田文雄政権を直接引き継ぐ存在であると位置づけるとともに、経済、エネルギー政策、こども政策、安全保障政策、外交政策などは基本的に前政権の方針を踏襲することを示唆すると言えるでしょう。

もちろん、石破首相は防衛庁長官と防衛大臣を務め、安全保障政策に対して十分な知見を有しているとされています。

実際、外務大臣に総裁選の選挙対策本部長を務めた岩屋毅氏を、防衛大臣に自らに近い存在である中谷元氏を就けたことは、今後の国防政策への意欲の高さを推察させます。

それとともに、今回の所信表明演説において従来と異なる独自の安全保障政策の推進を表明しなかったことは、政権の基盤が確立される前に新規の政策を表明することで与党内の意見の対立などを生じさせないという配慮によるものと言えます。

その一方で、地方が活発になることを通して日本の社会全体や経済活動の活性化を目指す政策については、地方創生担当国務相を務めた経歴からも石破首相が重視する事項の一つであるのは周知の通りです。

自民党の政治資金問題に端を発する政治への不信を受けた「ルールを守る」、外交や安全保障を含む「日本を守る」、防災対策などを主眼とする「国民を守る」、女性の社会進出や教育改革などを主眼とする「若者・女性の機会を守る」に加え、「地方を守る」と一項を設けて独立した議論としたことは、石破首相の地方の活性化に対する意欲の高さを表します。

このように、得意とする分野を重点的に主張し、自民党の正当な政権の後継者であることを訴えかけることは、石破首相が自らをどのように認識し、いかなる位置付けを行おうとしているかを示しています。

特に、岸田前首相だけでなく竹下登氏や渡辺美智雄氏の名前も挙げたことは、長らく自民党の傍流とされてきた石破首相が党の本流を継承すると訴えかける、典型的な箇所です。

近年は古典や故事の恣意的な引用や参照によって格調を高めようとする所信表明演説や施政方針演説が行われる中で、もっぱら目の前の課題に焦点を絞り、自民党の正統派であることを強調する、石破首相の特徴を示すものだと言えるでしょう。

それだけに、今後の具体的な政策がどのようになされるかが大いに注目されるところです。

[1]第二百十四回国会における石破内閣総理大臣所信表明演説. 首相官邸, 2024年10月4日, https://www.kantei.go.jp/jp/102_ishiba/statement/2024/1004shoshinhyomei.html (2024年10月5日閲覧).

<Executive Summary>
What Is the Meaning of Prime Minister Shigeru Ishiba's General Policy Speech? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Shigeru Ishiba made the General Policy Speech at the both Diets on 4th October 2024. On this occasion, we examine the meaning of this speech.

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