「北京オリンピックの開会式」はいかなる意味を持つか

昨日、冬季オリンピック北京大会の開会式が行われ、2月20日までの17日間の日程が始まりました。

開会式では大会組織委員会会長で、開催都市である北京市を率いる共産党委員会の蔡奇書記があいさつし、「習近平国家主席と政府の力強い指導のもと、新型コロナの感染の影響を全力で克服し、予定通り開幕することができた」[1]と習近平国家主席の指導力を称賛しました。

大会が延期されず、当初の予定通りの日程で開催された点を強調するのは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により会期を1年延長した夏季オリンピック東京大会との対比を念頭に置いているためであことが推察されます。

そして、初期の日程を変更することなく大会を開催することで習近平政権の「コロナ対策」の適切さだけでなく、こうした対策を可能とする中国の政治制度の優秀さを示そうとしていることも、容易に理解できると言えるでしょう。

あるいは、聖火リレーの最終走者としてスキー競技に出場する漢族とウイグル族の選手を起用したことは、米英など一部の国が中国国内の人権問題を理由に政府高官を開会式及び閉会式に派遣しない「外交ボイコット」を行うことに対抗し、民族の融和を強調する目的を持った演出であると考えられます。

あたかもオリンピックを現在の中国の体制の肯定するための装置として活用するかのような開会式は、「オリンピックの政治化」という点から考える際に、興味深い事例を提供することになります。

もとより、冷戦という政治的な対立の中で1980年代に東西両陣営が選手団の派遣を見送った過去の歴史に照らせば、国際オリンピック委員会(IOC)が政治的な問題に関与することで反対勢力の離反や批判を招くことを避けようとするのは不思議ではありません。

また、政治問題に関与せず、中立を標榜することも、IOCにとっては過去に学んだ一種の知恵であると言えます。

しかし、こうしたIOCの姿勢が大会の開催そのものを最優先し、開催都市やその都市が属する国の中にある様々な問題を間接的に肯定しているという点も見逃すことはできません。

その意味において、今回の開会式は、大会の開催という目的のために可能な限り現状を肯定しようとするIOCの態度を改めてわれわれに示したと言えるでしょう。

[1]北京五輪 習主席が開幕宣言 聖火最終ランナーにウイグル族選手. NHK NEWS WEB, 2022年2月6日, https://www3.nhk.or.jp/sports/news/k10013467881000/ (2022年2月5日閲覧).

<Executive Summary>

What Is a Meaning of the Opening Ceremony of the Beijing Olympics? (Yusuke Suzumura)

The Opening Ceremony of the Beijing Olympics was held on 4th February 2022. In this occasion we examine a meaning of the ceremony to understand a relationship between the Olympics and politics and attitude of the International Olympic Committee against the issue.

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