「中曽根氏の合同葬費用」を巡る議論に求められる点は何か

昨日、加藤勝信官房長官が記者会見を行い、10月17日(土)に開催される予定の中曽根康弘元首相の内閣及び自民党の合同葬の経費の総額が約1億9000万円であり、内閣と自民党で折半することを想定していることを表明しました[1]。

中曽根氏の合同葬の経費については、今年度の当初予算の予備費から約9600万円を拠出することが閣議決定されています[2]。

加藤官房長官は「新型コロナウイルスへの対応でより多くのスペースが必要になることなどもあり、費用が膨らんでいるが、必要最小限の範囲で進めている」とする一方、共産党の小池晃書記局長が「総理大臣経験者の葬儀に、税金を一切使うなとは言わないが、やり方を考えたほうがいい」と指摘するなど、葬儀のあり方に対する疑問が示されています[2]。

内閣総理大臣経験者であり、生前に大勲位を受けた中曽根氏に対して、大勲位受勲者にふさわしい規模と格式により葬儀が執行されることは当然と言えることは、すでに本欄の指摘するところです[3]。

合同葬には遺族や元国会議員など関係者およそ1400人が参列し、一般の人の弔問や献花は行わないものの、新型コロナウイルス対策を行う必要があるために経費がかさんでいるという理由も、合理的と言えます。

あるいは、もし諸外国から弔問の使節が派遣されることになれば、相応の接遇が求められますから、外交儀礼に則った対応も必要となります。その意味で、約9600万円という金額の中に対応に万全を期すための費用が含まれているとすれば、適切な支出となるでしょう。

それとともに、「1億円規模の葬儀は、国民の感覚からは、かけ離れているのではないか」[2]という小池氏の指摘にも、一定の妥当性があります。

それだけに、政府に求められるのは経費の細目を積極的に公表するということであって、「必要に応じ、国が負担する意義も、しっかり説明したい」[2]といった漠然とした態度ではありません。

また、金額の多寡に対する批判も、「国民の感情」といった抽象的な理由ではなく、検証が可能な根拠に基づいてなされる必要があります。

他の事柄と同様、中曽根氏の合同葬儀の経費を巡る問題も、好悪の感情ではなく、具体的な事実に従い議論がなされることが期待されるところです。

[1]中曽根氏合同葬に1.9億円. 日本経済新聞, 2020年9月29日朝刊4面.
[2]コロナ対策万全に中曽根元首相の合同葬 実施へ 加藤官房長官. NHK NEWS WEB, 2020年9月28日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200928/k10012638721000.html (2020年9月29日閲覧).
[3]鈴村裕輔, 「中曽根氏の葬儀の経費」で思い出した中曽根康弘元首相を巡るいくつかの逸話. 2020年9月25日, 「中曽根氏の葬儀の経費」で思い出した中曽根康弘元首相を巡るいくつかの逸話 (2020年9月29日閲覧).

<Executive Summary>
The Discussion on the Joint Funeral for Professor Dr. Yasuhiro Nakasone Shall Be Based on Evidence (Yusuke Suzumura)

There is the discussion on the joint funeral of the Japanese Government and the Liberal Democratic Party for Professor Dr. Yasuhiro Nakasone. It shall not be based on feeling but evidence, since feeling is dependent on one's position and mind.

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