「2022年の印象的な新刊12冊」を振り返る

2022年の新刊書のうち、私が実際に手に取り、特に印象に残った12冊は、発行日順に以下の通りでした。

なお、一人の著者が複数の書籍を出版した場合は、その中で最も印象深い1冊を取り上げています。

■マンボウやしろ『あの頃な』(角川春樹事務所)
■君塚直隆『イギリスの歴史』(河出書房新社)
■オカモト"MOBY"タクヤ『ベースボール・イズ・ミュージック』(左右社)
■濱野靖一郎『「天下の大勢」の政治思想史』(筑摩書房)
■岩井秀一郎『服部卓四郎と昭和陸軍』(PHP研究所)
■室靖治『「記録の神様」山内以九士と野球の青春』(道和書院)
■岡本隆司『曾国藩』(岩波書店)
■瀧井一博『大久保利通』(新潮社)
■清川祥恵・南郷晃子・植朗子編『人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか』(文学通信)
■峯村健司『ウクライナ戦争と米中対立』(幻冬舎)
■伊東潤『天下大乱』(朝日新聞出版)
■大嶋かず路『ウィリアム・ピット』(教友社)

(以上、敬称略)

それぞれの作品への寸評は以下の通りです。

マンボウやしろさんの『あの頃な』(角川春樹事務所)は、日々の光景が未知の世界への入り口となることを教えるとともに、人間そのものへの深い信頼を宿す小編25作からなり、今後「コロナ文学」を考える際に不可欠であるばかりでなく、他の様々な主題での創作活動への期待を高める一冊です。

君塚直隆先生の『イギリスの歴史』(河出書房新社)は、太古から現在までの「イギリスの歴史」を俯瞰する1冊です。平易な語り口とともに重要な視点を随所に織り込む本書は、今後これを参照することなしイギリスの通史を教え、あるいは議論することは難しくする名著です。

オカモト"MOBY"タクヤさんの『ベースボール・イズ・ミュージック』(左右社)は、これまで逸話の一つでしかなかった「野球と音楽」の関係を深化させた1冊で、伊東一雄さんの「野球は言葉のスポーツ」の考えを「野球は音楽のスポーツ」へと昇華させる良書です。

濱野靖一郎先生の『「天下の大勢」の政治思想史』(筑摩書房)は、頼山陽、阿部正弘、堀田正睦、勝海舟、木戸孝允、徳富蘇峰、原敬を取り上げ、「天下の大勢」への考えがいかにして日本の近代史に影響を与えたかを考究する、思想史の本流をなす、好著です。

岩井秀一郎先生の『服部卓四郎と昭和陸軍』(PHP研究所)は、社交性を活かして大使館駐在武官となり、他国の外交官や軍人と交際して情報を収集することが最も適任であったと指摘される服部卓四郎を戦争遂行の中心人物とした陸軍の構造的な問題を丹念に描く、読み応えのある1冊です。

室靖治さんの『「記録の神様」山内以九士と野球の青春』(道和書院)は、職業野球草創期から記録の整備に取り組み、現在のプロ野球の記録の充実ぶりの基礎を築いた山内以九士の生涯を追うことで、野球の持つ魅力と広がりを鮮やかに表現した、重要な1冊です。

岡本隆司先生の『曾国藩』(岩波書店)は、学才はあっても衆人に抜きんでた才能には恵まれなかった凡庸な人である曾国藩が、太平天国の乱という時代の変革期に直面したことで清朝中興の祖となる様子を丁寧に描き出し、その苦悩の過程を活き活きと蘇らせた好著です。

瀧井一博先生の『大久保利通』(新潮社)は、幕末維新期という時代の転換点に立った大久保利通が、理によって事柄に対処し、新しい国を作るために人々の才能を繋ぎ合わせる「知の政治家」であったことを、広範な資料の渉猟によって実証的に説く名著です。

清川祥恵・南郷晃子・植朗子の三先生の編になる『人はなぜ神話〈ミュトス〉を語るのか』(文学通信)は、社会に生きる一人ひとりの記憶を紡ぎ、伝えるための媒介としての「神話」の役割に着目し、「神話」の持つ機能とこれからの姿を検討する、16編からなる読み応えのある1冊です。

峯村健司さんの『ウクライナ戦争と米中対立』(幻冬舎)は、5人の専門家との対話を通してウクライナ戦争の問題の所在が明らかにするとともに、今後の日本と世界の進むべき道を模索する、既存の国際秩序の変革期だからこそ手に取るべき、重要な1冊です。

伊東潤先生の『天下大乱』(朝日新聞出版)は、徳川家康と毛利輝元という凡庸さを自覚した二人を対比し、最新の研究成果の活用により、「日本史上でも類まれな人間悲喜劇」たる関ケ原の合戦への道とその顛末を濃密な筆致で描いた傑作です。

大嶋かず路先生の『ウィリアム・ピット』(教友社)は、英国の財政再建やフランス革命における対仏大同盟の組織などによって大英帝国の維持に献身した小ピットことウィリアム・ピットの生涯を丹念に描き出し、今後小ピットを議論する際に不可欠な好著です。

この他にも様々な好著、良書に巡り合えたこの1年であり、著者と出版社の皆さんの尽力にはただただ感謝するばかりです。

そして、2023年もよりよい1冊との邂逅が楽しみです。

<Executive Summary>
My Best Twelve Books of 2022 (Yusuke Suzumura)

I selected my best twelve books of 2022. In this occasion I show the list of these books.

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