大学生選手への給与は大リーグにとってマイナス

去る6月4日(火)、日刊ゲンダイの2024年6月5日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第164回「大学生選手への給与は大リーグにとってマイナス」が掲載されました[1]。

今回は、先日全米大学体育協会や有力カンファレンスが決定した、大学が学生選手に給与を支払うことを認める方針が球界に与える長期的な影響について検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


大学生選手への給与は大リーグにとってマイナス
鈴村裕輔

米国の大学スポーツの統括団体である全米大学体育協会(NCAA)やサウスイースタン・カンファレンスなど有力なカンファレンスは、大学が学生選手に給与を支払うことを認める方針を示した。

従来、NCAAは学生の本分を勉学とし、勉学と競技の両立が原則であり、競技を優先して勉学をおろそかにすることは認められないとしてきた。

公式戦への出場や奨学金の受給資格と成績が結び付けたり、教育に関係ない金銭の受領も禁じ、選手の肖像権の商業利用などは認めなかったりしたことは、NCAAの方針を象徴する。

そのため、卒業後にプロとならない選手は氏名、画像、肖像などのパブリシティ権の利用による報酬を受ける機会を失ってきた。

ただ、NCAAは選手たちの活躍によって利益を上げている。そのため、選手が自らの活躍への金銭的な対価を得られないことはNCAAによる搾取との批判も根強かった。

NCAAなどによる今回の対応は、学生からの提訴や各州での法整備が進んだことを受けたものであり、路線の転換を意味する。

一方でNCAA会長のチャーリー・ベイカーは、大多数の選手はパブリシティ権を行使できず、人気の高い競技や特定の有力選手との格差が拡大することを懸念している。

確かに、現在でもアメリカン・フットボールやバスケットボールのように人気が高く、奨学金も充実している競技は学生にとっても好ましい競技である。

しかし、人気の高くない種目やNCAAの分類では最下位となるディビジョンIIIでは選手がパブリシティ権の行使の問題などとかかわりがないのも事実だ。

野球も人気種目ながら、奨学金の質や量、注目度はアメリカン・フットボールやバスケットボールに劣る。

今後、選手によるパブリシティ権の行使が普及し、注目度の高い競技が金銭的な恩恵を与えることが常態化すればどうなるか。

優れた選手ほどその能力の対価をより多く得られる競技を選び、大学スポーツにおける野球の存在感の低下が加速しかねない。

あるいは大学側がより多くの利益を得られる競技の偏重が起きかねない。

結果的に大リーグに進む選手が少なくなれば、NCAAの判断は実は球界の空洞化を招きかねないものだということが分かる。

今回のNCAAの措置が球界に与える影響は、長期的に見れば小さくないのである。


[1]鈴村裕輔, 大学生選手への給与は大リーグにとってマイナス. 日刊ゲンダイ, 2024年6月5日号23面.

<Executive Summary>
NCAA and Power Conferences Decision Will Have a Negative Impact to the MLB (Yusuke Suzumura)

My article titled "NCAA and Power Conferences Decision Will Have a Negative Impact to the MLB" was run at The Nikkan Gendai on 5th August 2024. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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