新労使協定を巡る交渉が難航するカラクリと波紋

去る11月15日(月)、日刊ゲンダイの2021年11月16日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第104回「新労使協定を巡る交渉が難航するカラクリと波紋」が掲載されました[1]。

今回は、今年12月1日で失効する現行の労使協定の改定を巡る大リーグ機構及び球団経営陣と選手会の対立と、難航する労使交渉が球界に与える影響を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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新労使協定を巡る交渉が難航するカラクリと波紋
鈴村裕輔

新しい労使協定を巡る機構・経営陣と選手会の対立が深刻になっている。

米国東部時間の12月1日23時59分、現行の労使協定は失効する。

もしそれまでに新協定が締結されなければどうなるか。経営陣が選手の排除を行い、各球団で40人枠に入っている選手の移籍やフリー・エージェント(FA)選手との契約交渉も停止する。

さらに、毎年12月初旬に行われるウィンターミーティングについても、大リーグ関連の会合などは中止され、マイナーリーグや業者間のみの参加になる公算が高い。

今後の展開を見越して、有力なFA選手を顧客とする代理人の中には、契約交渉を11月中にまとめるべく活発な動きを見せる者もいる。

現時点で妥結の見込みがなく、機構側が「FA資格の取得は29.5歳」、「年俸調停制度の廃止」、「FA資格取得前の選手の年俸を総合指標WARに基づいて算出」といった選手会には受け入れがたい提案を行うなど、事態は紛糾の度を増している。

それだけに、出来るだけ早く移籍先を見付けようとするFA選手や代理人の考えは、労使交渉の状況に照らしても妥当なものだ。

ところで、1995年以来26年ぶりのストライキの懸念も高まるほど労使交渉が難航する理由は、何であろうか。

今回の最大の焦点は、2003年に導入された贅沢税の基準額の引き下げ問題である。

年俸総額が基準額を超えた球団は、超過分に対する課徴金を支払うという贅沢税は、球団に高額の年俸で有力選手と契約することをためらわせ、結果として実力も実績もある選手が特定の集中する状況が緩和され、戦力の均衡化が進んだ。

2001年以降ワールド・シリーズを連覇した球団が現れていないのは、贅沢税制度の導入が一定の効果を持つことを示唆している。

その一方で贅沢税の存在が、課徴金を払ってでも選手を集めたい球団と課徴金を回避するために選手の年俸を抑制する球団とを生んだことも事実である。

年俸総額が基準額の範囲内に止まるということは、選手会にとっては実質的に年俸総額制が導入されていることに他ならない。

史上最長となった1994年から1995年にかけてのストライキは、経営陣による年俸総額制の導入を拒否することを目的としていた。

確かに、2021年10月5日時点で12球団の年俸総額が1億ドル未満であったから、年俸総額の基準額の引き下げは、実情に即した措置という側面も持つ。

しかし、現行の2億1000万ドルという年俸総額の上限を1億8000万ドルに引き下げるという案は、選手会にとっては年俸水準の引き下げに繋がりかねない事態である。

機構と経営陣が利益の確保に向けて大きく踏み出せるか、それとも選手会が選手たちの権利を守り抜けるか、今後の動向に注目が集まる。
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[1]鈴村裕輔, 新労使協定を巡る交渉が難航するカラクリと波紋. 日刊ゲンダイ, 2021年11月16日号27面.

<Executive Summary>
Will the Revision of the Collective Bargaining Agreement between MLB Players and Owners Enter Extra Innings? (Yusuke Suzumura)

My article titled "Will the Revision of the Collective Bargaining Agreement between MLB Players and Owners Enter Extra Innings?" was run at The Nikkan Gendai on 16th November 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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