1924年のパリオリンピックはどのような大会だったか--パリオリンピック2024の開幕1か月前によせて

本日、パリオリンピックの開幕まで1か月を迎えました。

パリが夏季五輪の開催都市となるのは1924年以来100年ぶり3回目となります。

近代オリンピックとして2回目となり、ギリシアでの継続した開催が退けられ各国の持ち回りが決まった1900年、後に第一次世界大戦と呼ばれることになる大戦争の戦災からの復興を印象付けた1924年と、パリ大会はオリンピックやフランスの社会情勢を反映した大会という性格を持つものでした。

今回は環境に配慮し、持続可能な大会を標榜し、史上初めて競技場の外で開会式を行い、パリの象徴の一つであるセーヌ川を利用することで大規模な施設の建設を回避するといった、新たな取り組みがなされています。

ところで、100年前のパリ大会を振り返ると、画期的な大会であったことが分かります。

このときの大会は1924年5月4日から7月27日まで開催されました。

近代オリンピックの創始者でピエール・ド・クーベルタンが国際オリンピック委員会(IOC)会長を1925年で退任することを宣言したことで、1924年のパリ大会はフランス出身であるド・クーベルタンにとっての花道として招致、開催されました。

これは、現在もIOCで見られる縁故主義、あるいは情実主義の表れと言えるでしょう。

一方、1924年のパリ大会では、大会組織委員会によるラジオ中継への取り組みがなされました。

すなわち、フランス・オリンピック委員会(FOC)は週1回、 Bulletin des Jeux Olympiques de Paris 1924 (「1924年パリ・オリンピック・ニューズレター」)を仏英西伊の4か国語で発行し、各国オリンピック委員会や競技団体に送付するとともに、新聞一般紙、スポーツ紙、通信社といった報道機関にも送付します。

その際、FOCはニューズレターの送付先に、1924年1月から2月まで開催されたシャモニー・オリンピックの際には無視していたラジオ放送局を加えました。

このような態度の変化は、ラジオ放送に対する評価が懐疑的なものから肯定的なものになるとともに、大量消費社会の誕生と聴取者としての大衆の登場を背景としていました。

換言すれば、FOC、さらにはIOCにとって、ラジオはスポーツを通して心身を向上させ、さらには文化・国籍など様々な差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献するというオリンピックの価値を広く聴取者に啓蒙する媒体として認められたのでした。

そのため、ラジオ放送は、新聞のように独自の取材を行う報道機関ではなく、オリンピックの宣伝媒体として扱われました。

それでも、実際には事前の広報活動だけでなく、全競技の結果もフランス国営ラジオ局を通して放送され、ラジオとオリンピックの接触が起きたのでした。

ラジオによるスポーツの生中継放送が行われる以前は、人々は競技場に直接行かなければ、競技の推移などの最新の情報を即座に知ることは不可能でした。

当時の主な情報の入手方法は新聞や雑誌、映画、スライドなどであり、いずれも競技の結果を知るためには一定の時間を要するものであることは改めて論ずるまでもありません。

しかし、ラジオの生中継放送が実現したことで、聴取者は観客として競技場に行かずとも、ラジオ放送を通して競技の概要や結果を瞬時に知ることが可能になりました。

ここに、スポーツの生中継を自宅にいながらにして即時に知るという新しい形態の観戦方法が誕生したのです。

もちろん、世界各国において、ラジオ放送の本格化とスポーツ中継への進出により、既存のメディア、とりわけ即時性でラジオ放送に劣る新聞はラジオ放送の勢力の伸張を押さえようとする現象が起きました。

パリオリンピックの場合、43か国の報道関係者724人が取材の申請を行い、685人が実際に取材を行うものの、ラジオ放送局の関係者は取材の申請が認められなかったことは、そのような新旧の媒体の確執の典型的な事例です。

あるいは、日本でも1925年3月22日にラジオ放送が始まった際に多くの新聞がその存在を無視し、現在では当たり前といえるラジオ欄も、当初は東京の地域紙であった読売新聞だけが設けていたものです。

しかしながら、やがてラジオ放送と敵対するのではなく、ラジオ放送と共存することを目指し、新聞各紙は「ラジオ欄」を設けるようになりました。

同様に、ラジオを排除していたオリンピックも、パリ大会を契機にラジオを重視し、現在に至っています。

それだけに、100年後に開かれる今回のパリ大会でどのような新たな側面がオリンピックに付け加えられるか、7月26日(金)から8月11日(日)まで行われる大会の行方が注目されます。

<Executive Summary>
What Will Be the New Aspects of Paris Olympic Games 2024?: Seen from the Paris Olympic Games 1924 (Yusuke Suzumura)

The Paris Olympic Games 2024 will be held from 26th July to 11th August 2024. On this occasion, we examine the meaning of the Paris Olympics seen from the facts of the Paris Olympic Games 1924.

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