円安ドル高が大リーグを目指す日本人選手に与える影響

去る10月3日(月)、日刊ゲンダイの2022年10月4日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第124回「円安ドル高が大リーグを目指す日本人選手に与える影響」が掲載されました[1]。

今回は今年に入って急速に進む円安ドル高について、米国球界への挑戦を計画する日本球界の選手にとっていかなる影響を与えるかを検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


円安ドル高が大リーグを目指す日本人選手に与える影響
鈴村裕輔

値上げの10月が終わった。
帝国データバンクの調査では、10月に値上げされる食品や飲料の数は6699品目で、9月の約2.8倍、2022年に入って最多となる。

さらに、為替相場も9月22日に一時1ドル145円台を記録すると、政府と日本銀行が1998年6月以来となる円買いの単独介入を行った。

この時点で過去最大となる3兆円規模の円買い介入ではあったものの、効果は限定的で、翌日以降も終値は144円台で推移した。

主要各国の中央銀行が政策金利の引き上げなどの金融引き締め策を行う中で、日本のみが依然として大規模な金融緩和を継続している。円での預金では利益が少ないからドルに資金が流入し円を売ってドルを買う動きが強まるから結果的に円高ドル安となるのは、当局が金融政策を変更しない以上当然だ。

しかも、ウクライナ問題を契機とする燃料高も加わり、輸入商品の値上がりや海外行きの航空運賃の高騰など、普段は縁遠いように思われる為替相場の影響が確実に日常生活に及んでいる。

一方、例えばドル建てで給与が支払われる米国駐在員などは、為替相場の変動によってドルが強くなっているから、給与を日本円に換算すると金額が増えているように見える。

実際には米国は日本以上に物価が上昇し、特にニューヨークやロサンゼルスなどの大都市での生活費も高騰しているため、円安ドル高の恩恵を全面的に受けているわけではない。

野球に限れば、2000年に約189万ドルであった平均年俸が2022年は約441万と約2.3倍上昇した大リーグと、同時期に3269万円から4312万円と約1.3倍の日本のプロ野球と、両者の差は確実に開いている。

この間、最低年俸を20万ドルから70万ドルへと段階的に3.5倍引き上げた大リーグと、一軍最低年俸が1300万円と1600万円と約1.2倍の増額に留まっているプロ野球という、構造的な違いがある。

国内総生産(GDP)が2000年の約10兆ドルから2021年の約22兆ドルと2倍に増加した米国と約535兆円から536兆円とほぼ横ばいであった日本の経済規模の差も見逃せない。

もちろん、日本と同様に年俸には所得税が課せられるし、居住する州や市などによっては連邦だけでなく地方自治体がいずれも所得税を徴収するなど、納税の義務は不可避である。

しかし、着実な米国経済の成長を背景に、各球団が経営規模を拡大し、観客も入場料や飲食代の高騰を受け入れて試合会場に足を運び、結果として選手の年俸も上昇するのが、現在の大リーグだ。

それだけに、年俸という面では、現在の円安ドル高に象徴される日米間の経済格差の広がりは、大リーグを目指す日本球界の選手にとって、決して悪い話ではないのである。


[1]鈴村裕輔, 円安ドル高が大リーグを目指す日本人選手に与える影響. 日刊ゲンダイ, 2022年10月4日号26面.

<Executive Summary>
What Is an Impact of "Weak Yen and Strong Dollar" for Japanese Player Aiming to the MLB? (Yusuke Suzumura)

My article titled "What Is an Impact of "Weak Yen and Strong Dollar" for Japanese Player Aiming to the MLB?" was run at The Nikkan Gendai on 3rd October 2022. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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