「東京五輪組織委員会の看護師500人確保問題」の持つ意味は何か

4月26日(月)、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、大会期間中の医療体制を構築するため看護師約500人の確保を目指して関係団体と協議を始めたと発表しました[1]。

こうした措置に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により医療体制が逼迫している中で多くの医療関係者を大会に投入することは、それだけ市中から医療人材が不在になることを意味します。

そのため、依然として進展を見せないワクチンの接種や、新型コロナウイルス感染症以外の疾病も含む地域医療にも影響しかねないとう懸念が呈されるのも当然です。

その一方で、現時点で大会の開催の可否を決定する国際オリンピック委員会(IOC)が中止や延期を明言せず、あくまで予定通りに開催する意向を示している以上、大会組織委員会が実施に備えて事前に医療関係者の手配を行うことは、適切な対応と言わねばなりません。

むしろ、現下の医療供給体制に慮って必要な対策を講ずることを延期し、開催直前に対応しようとすれば、無用の混乱を引き起こすだけになるでしょう。

ただし、オリンピックやパラリンピックへの医療体制の供給が地域の医療よりも優先されることを正当化することが決して容易ではないことも疑いえないところです。

もしこうした措置の正当性を明確に示し得ないのであれば、「オリンピック運動」の波及を目指すIOCにとってもオリンピックの価値そのものを損なう結果を招きかねません。

さらに、善意で協力する医療関係者にも、自己の判断の適切さに疑念を抱かせることになるでしょう。

その意味で、大会組織委員会は、自らに課されている責任の大きさを適切に理解し、行動することが求められるのです。

[1]大会中 看護師500人確保. 日本経済新聞, 2021年4月27日朝刊40面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Tokyo 2020 Organising Committee's Seeking 500 Nurses to Work at Olympics? (Yusuke Suzumura)

The Tokyo 2020 Organising Committee seeks 500 nurses to work at Olympics. In this occasion we examine the role and task of the Committee to Japanese society.

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