大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由
去る4月25日(月)、日刊ゲンダイの2022年4月26日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第114回「大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由」が掲載されました[1]。
今回は、今年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵攻を受けてスポーツや芸術の分野でロシア人を排除する動きが起きた中で、大リーグが事態を静観するかのような態度を示している理由を検討しました。
本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。
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大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由
鈴村裕輔
今年2月にロシアによるウクライナへの侵攻が始まると、スポーツや芸術の分野からロシア人を排除する動きが広まった。
北京パラリンピックからロシア選手団が排除されたことや、世界的な指揮者でロシア人のヴァレリー・ゲルギエフがミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者を解任され、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団も全ての関係を解消することを公表した。
前者については、一度は国際パラリンピック委員会が参加を認めながら、各国の選手や競技団体などの反発を受けて決定が覆り、後者については、ロシア大統領のウラジミール・プーチンとの親密な関係が問題視された結果であった。
最近では今年6月に開幕するテニスのウィンブルドン選手権について、主催者であるオールイングランド・クラブがロシアと友邦ベラルーシの選手の出場を禁止した。
これらは、いずれも文化的な側面からロシアに制裁を加えようとする措置の一環となる。
それでは、米国のスポーツ界の場合はどうだろうか。
米国の四大プロスポーツの中で、最も多くのロシア出身の選手が在籍するのはNHLで、今年4月23時点でワシントン・キャピタルズのアレクサンダー・オベチキンをはじめとして56人が現役だ。
アイスホッケーの強豪国であることを考えれば、世界のアイスホッケーの頂点に立つNHLに参加するロシア出身の選手が多いことは当然と言える。
だが、NHLは32チームで1チームの出場登録選手数は23名だ。しかも、本拠地は米国とカナダのみに限られている。それだけに、NHLにおいてロシア出身の選手の占める割合の大きさが分かるだろう。
これに対して、NFL、NBA、そして大リーグでは、過去にロシア出身の選手が在籍したことはあっても、今のところ現役選手はいない。
大リーグの場合は1992年にパイレーツで8試合に登板したビクター・コールが最後のロシア出身者となっている。
今年1月にドジャースがロシア生まれでキューバ人の父を持つエンリケ・セビージャとマイナー契約を結んだものの、ただちに大リーグに昇格することはない。
もちろん、選手だけでなく球団職員などにも目を向ければロシア系の者もいるとはいえ、球界全体としてロシアとの関係は希薄というのが実情である。それだけに、大リーグ機構や各球団、あるいは選手会がロシアに対して独自の動きをとろうとする機運に乏しい。
NHLでは、ロシア出身の選手たちがウクライナ問題で共同声明を出そうとしたものの意見の対立から合意に至らなかった。こうした状況を考えるなら、球界は今のところウクライナ問題について事態の推移を眺めるだけで済む立場にいると言えるだろう。
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[1]鈴村裕輔, 大リーグが「ウクライナ問題」に傍観者でいられる理由. 日刊ゲンダイ, 2022年4月26日号26面.
<Executive Summary>
Why Does the MLB a Bystander for the "Ukraine Issue"? (Yusuke Suzumura)
My article titled "Why Does the MLB a Bystander for the "Ukraine Issue"?" was run at The Nikkan Gendai on 25th April 2022. Today I introduce the article to the readers of this weblog.
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