札幌市とJOCの立場から考える「冬季五輪年の一括開催」の得失

国際オリンピック委員会(IOC)が2030年及び2034年の冬季五輪の開催地を一括して決定することになった点について、IOC側の判断の妥当性については昨日の本欄について検討した通りです[1]。

一方、2030年の招致を断念し、2034年以降に向けた活動を行うと表明した札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)にとっては、公式発表の4日後にIOCの総会が一括決定の案を採択するとともに、2034年に開催の実現のある都市から札幌市を除外したことは、「IOCの裏切り」とも「バッハの寝返り」といえます。

何故なら、2021年に開催された東京オリンピックについて、2019年11月に急遽マラソン競技の開催地の変更を表明したIOCの意向に沿う形で実施を受け入れた札幌市にとってはIOCに無理な要求に対応したという貸しがあるからで、今回の措置はあたかもそのような貸しを無視するかのようなものだからです。

また、バッハ会長との関係は良好であると考え、そうした間柄に依存する形で招致活動を行ってきたJOCにとって、2030年の大会は日本国内の支持が十分でないために難しいとしても、2034年に捲土重来を期すという計画の下で前者を断念する決断をしました。

そのため、今回のIOCの決定はJOCや札幌市の判断を無視するかのようなものであり、一面では日本側の面目をつぶすものであり、他面においては良好と思っていたバッハ会長との関係がうわべだけのものであり実際には東京大会の開催のためにJOCが利用されていただけであることを示唆します。

思えば、1988年の名古屋市や2008年の大阪市も、事前の取り組みが不十分なために夏季五輪の開催都市争いで敗北しています。

今回の札幌市も、情勢判断を見誤ったり情報収集の点で後れを取ったりしたため、2030年の大会のみならず2034年も候補から外れました。

これから2038年の開催を目指すとしても、果たして札幌市や日本国内の世論の支持を得られるのか、JOCが十分な支援体制を整えられるのか、そして、何より関係者が十分な意欲を持って招致活動を行えるのかという点で、札幌市が見出せる進路は限りなく狭いものになっていると言えるでしょう。

それだけに、札幌市が2038年以降の大会の招致を試みるのか、それとも活動そのものを断念するのか、今後の対応が注視されます。

[1]鈴村裕輔, 「冬季五輪開催都市の一括決定」は適切な施策か. 2023年10月17日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/af5565b4516af0235df5d94269db7e8a?frame_id=435622 (2023年10月18日閲覧).

<Executive Summary>
Is Selecting the Host Cities for the Winter Olympic Games of 2030 and 2034 a Good Policy for the City of Sapporo and the JOC? (Yusuke Suzumura)

The International Olympic Committee held the 141st Session from 14th to 17th October 2023 and decided the new policy to select the host cities for the Winter Olympic Games of 2030 and 2034 at the same time. On this occasion, we examine the possibility of the City of Sapporo to invite the Winter Olympics from 2038 onwards.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?