「博士人材活躍プラン」を考える際に重要な論点は何か

3月26日(火)、文部科学省は「博士人材活躍プラン」をまとめ、人口100万人当たりの博士号取得者を2040年に現在の3倍にする目標を公表しました[1]。

計画では、大学院教育の改革や大学院生の支援を強化することで博士課程への進学者を増やすとともに、産業界と連携して博士号取得者の就業の機会を拡大するとのことです。

分野による違いがあるとはいえ、博士号の取得者が課程を修了した後にただちに大学で任期なしの専任の職を得ることが容易ではない現状を考えれば、民間企業が博士号の取得者や満期退学者などに広く門戸を開くことは、新たな活躍の場の提供という意味でも意義のある取り組みとなることでしょう。

ただし、「博士問題」が取り沙汰される場合、往々にしていわゆる理科系の博士号取得者が議論の中心になりがちであることも事実です。

しかし、実際には産業の活性化につながるような実務的な内容を研究するだけでなく、歴史や思想、文化、あるいは制度など、社会の基盤を確かなものにし、人々の生活の質の向上に寄与するものの、金融商品の開発や人工知能の発達とは関係しない分野も多数存在します。

そして、「博士問題」や「博士人材の活用」という際には、意図的であるか否かを問わず様々な研究分野に多彩な研究者がいることが見過ごされる形で検討が進むために、政策の実効性が乏しいか、限られた範囲にのみ有効な対策が施されるだけになりがちです。

しかも、一国の研究力を高めるためには、一面において高度な専門能力を備えた研究者を育成するとともに、他面では研究者が自らの研究能力を遺憾なく発揮できる環境の整備が不可欠です。

このとき、「博士人材の活用」という名目のために研究者がこれまで修めてきた学問領域とは関係のない分野の研究に携わることは、既存の知見を活用するための格好の機会となるかもしれないものの、研究の連続性が途絶すると考えるなら、必ずしも好ましいことではありません。

もとより、自立した研究者である博士号取得者や満期退学者は分野を問わずこれまでの研究成果の収集や文献の分析などの基礎的な研究能力を備えています。

従って、「博士人材の活用」に重要なのは「社会が求める博士」の育成だけでなく、「博士の能力を理解できる社会」の形成でもあります。

それだけに、今後、様々な分野の博士号取得者を念頭に置いた検討が進められることが願われます。

[1]「社会が求める博士」育成. 日本経済新聞, 2024年3月27日朝刊46面.

<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Examine the Way of Use of Researchers Obtained a Doctrate? (Yusuke Suzumura)

The Ministry of Education、Culture、Sports、Science and Technology announces that they introduce the new policy to increase the total number of researchers obtained a doctrate three times by 2040 on 26th March 2024. On this occasion, we examine an important viewpoint to discuss such kind of policy regarding the problem.

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